センチネルリンパ節1つに微小転移があり腋窩リンパ節郭清しました。放射線治療は必要でしょうか。

2021年5月11日  , 

術前の組織生検で非浸潤性乳管がんと診断され、右乳房全切除しました。手術時のセンチネルリンパ節生検で1つに微小転移があったため腋窩リンパ節郭清をしました。
病理検査の結果は、ステージ1b しこりの大きさ24㎜ 浸潤径は、浸潤像が見られないため不明 腋窩リンパ節の転移なし 脈管侵襲Ly1 V0 断端陰性 ホルモン受容体陽性 核異型スコア2 Her2とKi-67については浸潤像が見られないため評価せずでした。
治療はホルモン療法のみで現在タモキシフェン服用中です。同病院の別の乳腺科の先生の中には放射線もやったほうがいいのではとの意見もあったそうです。核異型スコアが2のためでしょうか??
放射線治療の必要性についてご教示ください。よろしくお願いします。

術後ホルモン療法が開始され、放射線治療は必要なのか気にされているご様子ですね。

結論から申しますと、更に放射線治療(ここでは胸壁+鎖骨上下リンパ節領域の照射とします)を加えるメリットは、大きくないのでは、と考えます。

まずご質問文から内容を整理させて頂きます。

  • 術前診断:非浸潤性乳管がん Stage0
  • 施行術式:乳房切除術+センチネルリンパ節生検→腋窩リンパ節郭清
  • 迅速病理:センチネルリンパ節に微小転移(2mm以下の転移)
  • 永久病理:非浸潤がん(24mm)、浸潤がん成分はなし、腋窩リンパ節はセンチネルリンパ節以外の転移なし、断端陰性、ホルモン受容体陽性(非浸潤部での評価)、核異型スコア2、HER2とKi-67は浸潤部ないため評価なし

pT0N1miM0  StageⅠB

*ly1、v0について:リンパ管侵襲はリンパ管の中に癌細胞が入り込んでいる像があるかを見ますが、基本的にその部分は浸潤がん成分のはずです。「浸潤像を認めなかった」ということから、リンパ管侵襲の中の癌細胞の量が少なかったのかもしれませんが、詳細は不明です。

上記という前提で以下回答いたします。

 

全摘+腋窩リンパ節転移1個の患者さんに放射線治療を追加しないよりも追加することで

・10年局所・領域リンパ節再発率を20%から 3%に減少

・10年乳癌死亡率を36% から25%に減少

させることができるというデータがあります(Lancet. 2014 Jun 21;383(9935):2127-35.)。ただ、ここでのリンパ節転移陽性の定義は病理学的に転移が確認された、というものであり、今日で定義されている2mm以下の“微小転移”がどのくらい含まれているのかは正確には不明です。病理検査の精度が現在よりも劣ることを考慮すると、微小転移の症例が含まれていたとしてもそう多くはなく、そのため微小転移の場合の再発率・死亡率の減少幅は、上記よりも小さいと予想されます。

他の先生から放射線治療も検討した方が良いと意見があったのは、上記のようなデータを参考にされた可能性が一つ。他には想像の範囲を出ませんが、「年齢が若いから」かもしれません。治療に伴う合併症(心疾患の死亡確率が1.3倍増加、対側乳癌の罹患率が1.2倍増加、乳癌を除く全二次がんの罹患率が1.2倍増加と上記論文では報告あり)より、乳癌再発リスクを可能な限り最小限にするため、過剰治療かもしれないけれど、放射線治療もやっておいたらどうか、という提案だったのではないかと推察します。ご質問中にある「核異型スコアが2」は、放射線治療追加を検討する因子には通常なりません。

なお、全摘+センチネルリンパ節生検で微小転移が判明した時、乳がん診療ガイドライン2018年版では腋窩リンパ節郭清の「省略」が強く推奨されています(https://jbcs.xsrv.jp/guidline/2018/index/gekaryoho/g2-cq-4/)。腋窩リンパ節郭清を省略しても再発率や生存率の成績は変わらず、手術に伴うリンパ浮腫などのリスクは低下することが過去の臨床試験から判明しているためです(Lancet Oncol. 2013 Apr;14(4):297-305.)。

質問者さんの場合、既に腋窩リンパ節郭清を受けておられ、センチネルリンパ節以外には転移リンパ節はなく、全身治療としてタモキシフェンを内服されていることも考えると、放射線治療追加のメリットは大きくないのではと考えます。

ご参考になれば幸いです。再発なく経過されることを祈っております。

 

文責:呉共済病院乳腺外科 網岡 愛