ランマークと抜歯について

2022年6月28日   

先日70代の母が骨転移(3か所)の告知を受けました。現在痛み等自覚症状はありませんが、骨折リスクがある1か所について放射線治療を先行し、放射線治療終了後、イブランスとフェマーラ開始予定です。

質問はランマークと歯科治療についてです。転移告知当日に早速ランマークの投与を受けました。事前にランマークの副作用等について説明がなく、帰宅後顎骨壊死のリスクや治療前の歯科治療の重要性等を知り、かかりつけの歯科医に相談したところ、顎骨壊死のリスクになり得る歯(下顎奥歯に根尖病巣・歯冠大の歯根嚢胞)があるとのこと。抜歯するなら投与回数の少ない今がいいとのこと。難しい選択ですが、爆弾を抱え続けるより今抜歯した方がいいだろうと気持ちはほぼ固まっています。母は転移のショックに加えて、歯の問題と顎骨壊死の恐怖が大きなストレスとなっており、なんとか本人が最善と納得して治療に臨めるようにしてあげたいです。抜歯そのものはリスク因子ではないとの最新の研究結果も出てきたり、まだ研究途上で十分なエビデンスが確立されていない領域だと思いますが、以下の点について現時点での知見やお考えをお伺いできれば幸いです。

① 抜歯「前」のランマーク休薬について
乳腺外科の主治医は安全のためランマーク投与から3ヵ月休薬との意見、口腔外科の先生は休薬不要(乳がんの治療優先)との考えです(乳腺の病院には口腔外科はなく、歯科医は地元のかかりつけ医です)。2016年の顎骨壊死に関するポジションペーパーにも抜歯前の休薬は行わない旨記載があり、その後2019年の日本口腔外科学会においても抜歯前の休薬は不要とのコンセンサスを得たとの記事も目にしました。「抜歯前3ヵ月の休薬」というのは一般的なのでしょうか。その間治療ができないことが不安です。休薬が必要な場合、投与回数1回のみの場合も定常状態に達する6ヵ月以上の投与期間がある場合も、休薬期間の考え方は同じなのでしょうか?

② 乳がん治療停滞の不安
骨髄抑制を起こすイブランスも抜歯前後休薬予定で、ランマーク・イブランスの再開時期は治療箇所が治癒してから(歯科医曰く骨性治癒まで1ヶ月半程度)と両主治医の意見は一致しています。抜歯前3ヵ月に加え抜歯後の治癒までの間、5ヵ月もランマーク・イブランス治療ができないことでがんが進行しないかとても心配です。フェマーラだけは放射線治療終了後に開始できるのでしょうが、心もとない気持ちです。あまり心配しなくていいものでしょうか?またイブランス再開時期は骨性治癒してからというのは一般的でしょうか?

③ 低カルシウム血症予防のためのデノタス服用について
ランマークの添付文書に「カルシウム濃度が高くない限り、予防のためにカルシウム・ビタミンDを服用すること」と記載がありますが、主治医は実際に低カルシウム血症を発症しないと処方しない方針のようです。服用しなくていいのか不安なのですが、処方しないことは一般的なのでしょうか?処方をお願いした方がいいですか?

以上、まとまりのない長文で大変失礼しました。宜しくお願い致します。

ご質問ありがとうございます。よく調べられていますね。

  • 抜歯「前」のランマーク休薬について

ご指摘のように2016年の顎骨壊死に関するポジションペーパーでは、『歯科治療に関してはビスホスホネート(BP)の場合と同様に、治療前の徹底した感染予防処置を行ったうえで休薬は行わずに、できるだけ保存的に、やむを得ない場合は侵襲的歯科治療を進める。デノスマブ(ランマーク)投与患者において抜歯創を閉鎖し、二次感染を予防することにより良好な治癒が得られたとの結果が示されている。』と記載されています。また、骨吸収抑制薬(ランマーク等)の休薬の有無にかかわらず、抜歯後の顎骨壊死の発症頻度に差がないことも報告されています。

そして、当院の歯科口腔外科医にも確認したのですが、骨粗鬆症の場合には3か月くらい待ってもよいが、癌の人の場合、生命予後の観点からもデノスマブ(ランマーク)の休薬は不要で、早めに抜歯して感染を抑えるようにするのがよいということです。したがって、休薬は不要です。

  • 乳がん治療停滞の不安

イブランスについては、ファイザーに確認したところ、抜歯前後2週間(計4週間)休薬すればよいと言われています。

尚、休薬期間が長いことを不安に思われているようですが、骨転移は3か所であること、骨折リスクのある部位は放射線治療をしていること、フェマーラという主となるホルモン療法は継続していることから、ホルモン療法の効果を高める役割のイブランスおよび骨吸収抑制剤のランマークを休薬したとしても、ホルモン療法の効果はあるはずなので、あまり心配しなくてもよいと考えます。

  • 低カルシウム血症予防のためのデノタス服用について

添付文書に記載されているため、血清補正カルシウム値が高値でない限り、カルシウムおよびビタミンDの経口補充を行うのが一般的です。

一方で、カルシウムの測定のみ行って低カルシウム血症でなければカルシウムおよび・ビタミンDを投与しないケースも結構あるとのことです。(第一三共より)

主治医とよく相談して納得して治療をすすめてください。

文責:JA尾道総合病院乳腺外科 吉山知幸