非浸潤癌温存術後ですがHER2 3+の場合ハーセプチン投与は推進されますか?

2020年6月24日  , 

ステージ0の乳管内癌で温存手術をうけました。術後病理結果ではDCISでした。先日放射線治療を終了したところです。術前検査でHER2タンパクが3+でしたので、今後抗HER2療法(ハーセプチン投与)をしたほうがいいのか迷っています。
主治医の先生からは私のようなケースで文献的に治療をする根拠があるものは少ないためすすめられはしませんでした。今後の再発のことなどを考えると点滴治療を受けておいたほうが安心なのか、特に必要はない治療なのか判断が出来ず悩んでいます。

30歳とお若い年齢で乳癌の治療を受けられ、術後治療について迷われているご様子、不安なお気持ちをお察しいたします。

非浸潤性乳管癌に対しては、抗がん剤治療やハーセプチンなどの分子標的薬の治療は行わないのが一般的です。『非』浸潤性=「全身につながるリンパ管や毛細血管の張り巡らされた間質という場所にがん細胞が及んでいない状態」であり、理論的には切除したら治る病態だからです。一方、浸潤性の場合は、全身に小さな癌細胞が及んでいる病態ですので、お薬が血管を通して全身に行き渡るようにホルモン療法や抗がん剤治療・分子標的薬の投与が検討されます。

最新の乳癌治療ガイドライン2018では、非浸潤性乳管癌におけるHER2の検索は、現時点で勧める根拠がない、という記述になっています。根拠として、HER2陽性の非浸潤性乳管癌患者さんに対し、術後にハーセプチンを投与した臨床試験では、投与しなかった患者さんと比べて温存乳房内再発の発生率に差はなかった(NSABP B-43)という報告や、術前化学療法としてハーセプチンを投与したものの臨床的・組織学的に意義のある変化は認めなかった、という報告があります。(https://acsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/cncr.25399

現時点では、手術の後に放射線治療も受けられており、ハーセプチンの治療は不要と判断します。一方で、ホルモン受容体の判定(陽性/陰性)は如何でしたか?陽性の場合、温存乳房内の非浸潤癌再発や対側乳房のイベントを減らす目的で、術後に内分泌療法を考慮することもあります。納得がいかれるまで主治医の先生と話し合ってみてください。再発なく根治されることを祈っております。

 

文責:呉共済病院乳腺外科 網岡愛