浸潤径7ミリのHER2陽性乳癌ですが、術後の抗癌剤、ハーセプチン治療は必要ですか?

2020年5月9日  , 

先日乳癌で乳房切除の手術を受けました。石灰化の範囲が広く術前に抗癌剤治療をしても乳房温存はできないと言うことで、乳房切除の手術を先に行いました。
術後の病理検査の結果は、がんのしこりの大きさは3㎝。浸潤がんの大きさは、7mm。HER2 3+、グレード2、硬がん、リンパへの転移無しでしたので、必ずしも抗癌剤治療をする必要はないが、治療をするのであれば、タキソール、ハーセプチンの治療を3か月すれば良いとのことでした。
主治医から治療をするかどうかの判断材料としてNHSのPredictツールでの結果を教えて頂き、治療をした方が、約10%再発リスクを抑えられると出ましたので、治療を受けようと考えておりましたが、他のホームページで検索をすると浸潤がんの大きさが1cmまでであれば、HER2プラスでも抗癌剤の治療はしなくて良いと記載されていましたので、どうすべきか迷っています。
抗癌剤の副作用も怖いのですが、再発リスクを下げることを優先して治療する方向で判断することは、間違いではないでしょうか。

質問者様、こんにちは。術後の体調はいかがでしょうか。主治医の先生から、術後の抗がん剤治療を勧められているけれども、副作用も不安だし、迷っておられる状況かと思います。結論から申し上げますと、今ご提案されているタキソール、ハーセプチンの治療を受けられることをお勧めします。

ステージIの初期のHER2陽性乳がんを対象とし、タキソール3か月、ハーセプチン1年間の治療を約400人の患者さんに行った臨床試験では、3年間の再発率が2%未満でした。治療なしとの比較はありませんが、とても良い成績です。また、1cm以下のHER2陽性リンパ節転移陰性乳がん患者さんをレトロスペクティブに1,000人以上集めた解析が今年報告されていますが、ハーセプチン治療(+抗がん剤)を行った場合、行わなかった場合と比べて再発リスクは有意に低下しています。

一方で、懸念される副作用は、タキソールによる末梢神経障害(手足のしびれ)、ハーセプチンによる心機能低下です。ハーセプチンの心機能低下は症状が出るようなものは0.5%と稀で、ほとんどが中止により改善しますが、一方でタキソールによるしびれは治療終了後も残る可能性があります。糖尿病などしびれが出やすい状況や元々しびれがみられる場合、手先の細かい作業が必要なお仕事をされている場合は、注意が必要です。治療中約3%の方に日常生活に支障がみられるような末梢神経障害がみられます。

治療方針の参考になれば幸いです。

 

文責:県立広島病院臨床腫瘍科 土井美帆子