乳房温存術後の断端が陽性でした。追加切除か放射線+追加照射で迷っています。どちらがいいでしょうか?

2020年5月7日   

3月中旬に右乳房温存術(1.5cm範囲の石灰化)を受け、術中迅速では断端陰性でしたが詳しい病理の結果、内側上部奥側で断端陽性で1mm未満の露出があるとのことでした。追加切除を勧められましたが、再手術に気持ちが付いていけず他の方法を尋ねたところ、標準治療ではないが局所再発率が7%から20%へあがるリスクを承知であれば、放射線の追加照射でも構わないとのことでした。
さらにホルモン剤を服用すれば5%程度リスクを下げることもできるが、副作用を考えると大きな効果ではないと。
マンモトームの結果では右乳管がんの微小浸潤疑いでしたが、術前のカンファレンスでおそらく非浸潤であろうとセンチネル生検はしませんでした。
術後の病理結果でも確定には至らなかったが、非浸潤がんということになっています。そんなこともあるのでしょうか・・・
私自身も少なからず副作用のあるホルモン剤を服用することに抵抗もありますが、再手術をしない以上はやはりホルモン剤を服用すべきでしょうか?
そもそもこういった場合は浸潤がんの可能性を考え、やはり手術すべきなのでしょうか?
長文になりましたが、ご回答よろしくお願い致します。

1.病理診断について

まず、病理診断についてですが、術前検査のマンモトーム生検では非浸潤癌だけではなく、微小な浸潤癌成分があった可能性があります。しかし、手術標本の病理検査では明らかな浸潤癌成分はなかったので最終的に非浸潤癌という診断になったのでしょう。術前のマンモトーム検査でたまたま微小な浸潤癌の部分が完全に切除されたため、手術標本には浸潤癌の部分が残っていなかったということが稀ではありますが、浸潤癌の範囲が微小な場合にはあり得ます。

2.追加治療について

次に、追加治療についてですが、非浸潤癌の場合、断端陽性は断端陰性と比較して局所再発リスクが2倍になることが、20編の臨床研究のまとめとしてアメリカの腫瘍外科、放射線治療学会から報告されています1)。また、非浸潤癌が局所再発した場合の半数は浸潤癌として再発するため、断端に明らかな癌病変が露出している場合には、原則は追加切除を受け、断端陰性を確保することが推奨されます2)。切除した結果、遺残癌病変がないこともあります。

断端陰性を確保した上で全乳房照射による放射線治療を行うことで局所再発率を低く抑えられることが同学会から報告されていますが、断端陽性の場合に追加の放射線治療、ホルモン剤を行い、局所再発率がどの程度低く抑えられるかどうかを検証した信用できる臨床研究(前向きのランダム化比較試験)の報告はないため、明確な回答は困難です。

断端陰性:2mm以上が至適マージンとされています

ホルモン剤の内服治療については浸潤癌の場合には閉経前では5~10年間のタモキシフェン内服を行うことにより再発率、生存率が改善されるため、治療を受けることが強く推奨されます。一方、非浸潤癌の場合には5年間のタモキシフェンの内服により無再発生存率が25%低下されることが報告されており、日本乳癌学会の診療ガイドラインでも推奨度は弱いですが、推奨されています3)。しかし、対側乳癌の発生予防効果が主であり、温存乳房内の浸潤癌の発生、全生存率が改善されるわけではないので受けられない患者さんもおられます。したがって相談者の方も副作用(子宮内膜の増殖作用、血栓症、更年期症状)に注意しながら安全に受けられるのであれば5年間のホルモン剤の内服は受けることも可能ですが、受けない選択肢もあると思います。

参考文献:

1)J Clin Oncol. 2016 Nov 20;34(33):4040-4046.

Society of Surgical Oncology-American Society for Radiation Oncology-American Society of Clinical Oncology Consensus Guideline on Margins for Breast-Conserving Surgery With Whole-Breast Irradiation in Ductal Carcinoma In Situ.

Morrow M et al.

2)日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン 2018年版 外科療法

初期治療

CQ2.浸潤性乳管癌/非浸潤性乳管癌に対する乳房温存手術において,断端陽性と診断された場合に外科的切除は勧められるか?

推 奨

・乳房温存手術において切除断端陽性と診断された場合に,外科的切除を弱く推奨する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:弱,合意率:100%(12/12)〕

 

  • 日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン 2018年版 薬物療法

CQ5.ホルモン受容体陽性非浸潤性乳管癌に対して術後内分泌療法は推奨されるか?

推 奨

・ホルモン受容体陽性非浸潤性乳管癌の乳房温存手術後に,閉経前であればタモキシフェンの投与を,閉経後であればタモキシフェンまたはアロマターゼ阻害薬の投与を弱く推奨する。

〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:中,合意率:83%(10/12)〕

 

文責:県立広島病院乳腺外科 尾崎慎治