両側の非浸潤性乳管癌は温存と全摘どちらがよいですか?

2020年11月25日   

はじめまして。左胸のしこりが非浸潤性乳管癌と診断され、念のため右側の石灰化も調べたところ同じく非浸潤性乳管癌と判明しました。両胸とも小さなしこりと石灰化で部分切除・放射線治療可能と言われていますが、両方の胸にできたことにより再発及び新規の癌ができやすいのではと思い両胸とも全摘出・同時再建した方がよいのではと悩んでいます。左胸には他に良性のしこりが2つありますが、右胸は石灰以外はきれいです。親族で乳ガンを患った人はおらず、遺伝性の可能性は少ないと思われます。両胸にできた場合は全摘が妥当でしょうか?そしてやはり両胸にできると言うことは、今後再発や新規の癌ができやすいのでしょうか?

 

放射線治療を受けた為に再発時に乳房再建が難しくなるならば最初から全摘した方がよいのかとも思います。

 

どうぞよろしくお願いします。

まず、遺伝性の可能性についてですが、相談者様の場合、乳がん・卵巣がんの家族歴がなくても両側の乳がんの診断であり、「2個以上の原発性乳がん発症」ということになり、BRCAの遺伝学的検査を保険診療で受けることが出来ます1)。費用は保険診療:¥60,600(+消費税)(3 割負担の場合)です 。2019年度の日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)のまとめでは、相談者様のケース(50歳未満の乳がん発症、乳がん・卵巣がんの家族歴なし)ですと、陽性になる確率は18.1%(86/476)と報告されています。非浸潤がんでの乳がん発症はBRCA1が陽性の場合は6%、BRCA2が陽性の場合は13%(通常の乳がん患者さんと同程度)と報告されています2)

もし遺伝学的検査の結果が陽性であった場合は、放射線に対する乳腺細胞の感受性が高いので放射線治療による二次発がんのリスクが危惧されるため、放射線治療を併用する乳房温存療法は基本的には推奨されていません3)

 遺伝学的検査の結果が陰性の場合には、断端陰性で手術後の乳房の整容性が保たれるならば、浸潤がんの場合と同様に標準治療の一つとして乳房温存手術は推奨されています。ただし、手術後に放射線治療を併用することがやはり推奨されています。放射線治療により、10年での温存乳房内再発が半減(28%から13%に減少)することが報告されています4)。一方、放射線治療が省略可能な予後良好群を同定する臨床試験も行われており、予後良好な因子として、腫瘍径2.5cm以下、低/中グレード症例(核グレード1~2、comedo壊死なし。)、断端距離3mm以上 といった項目が挙げられています5)。しかし、確かなエビデンスに乏しいため、標準的には術後放射線治療を受けることが推奨されます。

 以上のことより、相談者様の場合、両側とも非浸潤がんの診断なので、急いで手術を受ける必要はないと思います。遺伝性乳がんを心配されるようであれば、遺伝学的検査をまず受けられ、その結果によって乳がん手術の術式を担当医の先生とともに検討されるのがよいのではないかと考えます。

 

文責:県立広島病院乳腺外科 尾崎慎治

参考文献:

1)CQ1.どのようなクライエントにBRCAの遺伝学的検査を提供すべきか? 遺伝性乳がん卵巣癌症候群の診療の手引き2017年版 [改訂版]

2)わが国におけるHBOCの現状と今後の取組み 日本乳癌検診学会誌 2013, 22(2) JUL:182-186

3)CQ12.術前にBRCA 変異保持者であることがわかっている場合,乳房温存療法は推奨されるか?遺伝性乳がん卵巣癌症候群の診療の手引き2017年版

4)5)BQ2.非浸潤性乳管癌に対して乳房温存手術後に放射線療法は勧められるか?乳癌診療ガイドライン治療編2018年版