術後の病理検査ではHER2陽性がでましたが 、再度FISH検査をしHER2陰性となりました。これはHER2陽性ではないのでしょうか?

2020年10月12日   

今年の夏、左乳房全摘、同時再建の手術をしました。センチネルリンパ節転移はありませんでした。

術前の病理検査では、ルミナルAタイプ
術後の病理検査では、HER2陽性がでました。
再度FISH検査をし、HER2陰性となりホルモン療法を開始しています。

大学病院の病理診断ですし、検査はしっかりとしていただけていると思います。
それ故に1度は陽性となった事が心配でなりません。

他院の病理相談外来を受診しようか、とても悩んでいます。主治医の先生を信頼していますし、セカンドオピニオンの書類や、検査標本などでお手数をおかけしては申し訳ないと躊躇しています。
HER2がグレーゾーンの方もいらっしゃるそうですし、今後の治療の選択が間違ってはいないかと、日々考えています。年齢的にも、HER2がグレーゾーンであれば治療したほうが良いのでは?と思っています。
精神的にとても辛いです。

医師のお立場で、どのようにお考えになられるでしょうか?
ご多忙とは存じますが、宜しくお願い申し上げます。

HER2検査に関しては、がん病変の組織切片を用いてまずはIHC法(免疫染色法)が行われます。結果はHER2蛋白の染色状態によって0, 1+, 2+, 3+の4段階に分けられます。0/1+がHER2陰性、2+がequivocal(判定保留)、3+が陽性と判定されます。2+に関しては追加の検査(FISH法など)でHER2蛋白の遺伝子増幅の有無を確認し、遺伝子増幅があった場合には抗がん剤+抗HER2薬(ハーセプチン)の適応となります1)。これは、転移性乳がん患者さんでHER2: 2+/FISH陽性とHER2: 2+/FISH陰性の患者さんを比較した結果、FISH陽性の患者さんで有効性が高かったという研究結果2)などをもとに決められています。

相談者様の場合、おそらく術前はHER2:1+で陰性の判定、術後はHER2:2+で判定保留→追加のFISH検査で陰性 という判定で抗がん剤+ハーセプチンは不要という判断になったのではないかと推定されます。主治医の先生に確認すべき事項は術後のIHC法でのHER2検査が3+(陽性)であったのか2+(判定保留)であったのかという点だと思います。HER2:3+であれば抗がん剤+ハーセプチンが必要、HER2:2+, FISH陰性であれば抗がん剤+ハーセプチンは不要という判断が標準的ですので。

参考文献

1)日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン 疫学・診断編 2018年版 病理診断BQ5. HER2検査はどのような目的で,どのように行うか?

2)Vogel CL, et al. Efficacy and safety of trastuzumab as a single agent in first―line treatment of HER2―overexpressing metastatic breast cancer. J Clin Oncol. 2002;20(3):719―26. [PMID:11821453]

 

文責:県立広島病院乳腺外科 尾崎慎治