術後治療がホルモン療法と放射線治療になりました。化学療法なしで大丈夫か不安です。また、非浸潤性小葉がんは治療なしで大丈夫でしょうか?
2020年11月11日 術後治療方針
部分切除、リンパ節郭清なし、がんの大きさ1.8cm、核異型度1、lyあり、vなし、リンパ節転移1(センチネルリンパ節)4ミリ、エストロゲン90%、プロゲステロン100%、HER2なし、ki67 20〜30%、断片陰性、病理検査で非浸潤性小葉がんもあることがわかりました。 主治医からは大人しいがんだから、ホルモン治療のみ抗がん剤は必要ないと言われました。リンパ節に転移もあり、ki67もグレーな数値ではないかと気になります。オンコタイプについては説明がありませんでした。抗がん剤なしで大丈夫でしょうか? 非浸潤性小葉がんについては、追加切除など必要なく、このままで大丈夫と言われましたが、浸潤性に変わるのではないかと心配です。病理検査で新たながんもみつかり不安です。 お忙しいところ申し訳ありません。どうぞよろしくお願いいたします。
ご質問ありがとうございます。1点目は化学療法がなしで良いか、2点目は非浸潤性小葉癌が治療なしで浸潤性に変わるのではないか?という内容についてご不安に思っておられるのですね。初めに、Ki67:20-30%については、施設によって高いとするか低いとするかは分かれるところですが、手術された施設の方針では低いとされた、ということと解釈します。また、現時点で腋窩リンパ節郭清は行っておらず、今後も行わずにホルモン療法と放射線治療を予定しているという理解で進めます。
- 化学療法なしで良いか?
オンコタイプDX検査は、化学療法をホルモン療法に上乗せした場合の効果を予測する遺伝子検査で、リンパ節転移が陽性であった場合を対象としたものもあります。検査費用は自費ですので40万円ほどと高額になりますが、受けたい旨を主治医の先生に伝えられては如何でしょうか?オンコタイプDX検査を受けない場合、質問者様の場合、ER陽性・HE R2陰性・Ki67:低値 で、Luminal Aというサブタイプ分類となりますので、一般的には化学療法の上乗せ効果が小さいグループとされます。その中でも再発リスクが高い=化学療法を考えた方がよいと考えられる因子としては、腫瘍径が5cm以上と大きい、リンパ節転移4個以上と多い、核グレードが3などの条件が挙げられますが、質問者様の場合はそれらに該当しません。そのため、主治医の先生は化学療法不要、との選択肢を提示されたのだと推測します。
あくまで参考程度ですが、オンライン予後予測ツールに、CancerMath.net (http://www.lifemath.net/cancer/)、 PREDICT (https://breast.predict.nhs.uk/tool)というものがあります。質問者様からのデータを用いて、私が主治医だったらという仮定で入力した結果を以下に記します。もし、具体的な生存率や死亡率などを知りたくない、という思いがおありでしたら、以下は飛ばして②からお読みください。
CancerMath(以下()内はPREDICTによる値)では、“無治療で過ごした場合”に、術後15年の時点で、100人中87(83)人が生存、6(6)人は乳癌以外の原因で死亡、残りの7(11)人は乳癌が原因で死亡、という質問者様のデータから得られた大元の背景があります。
・そこにホルモン療法を加えると7人中2人(11人中4人)が恩恵を受けて生存
・ホルモン療法に化学療法(今回はタキサンを含むコースを選択)を上乗せすると、ホルモン療法のみでは救えなかった5人のうちさらに2人(7人のうちさらに2人)が治療の恩恵を受けて生存
という結果でした。簡単に言いますと、化学療法追加の恩恵を受けるのは100人中2人程度、という結果でした。
その「化学療法の恩恵が受けられる100人中2人」にご自分が入っているか否かを高い精度で確認されたいのであれば、オンコタイプDX検査を受けることとなります。受けない場合、その「100人中2人」という確率を高いとするか低いとするかは、質問者様の価値観によると思われます。化学療法の副作用や費用などを聞かれたうえで、天秤にかけて判断されてください。
- 非浸潤性小葉癌は治療なしで浸潤性に変わるのではないか?
まず、非浸潤性小葉癌については、「乳がんいつでもなんでも相談室 > Q&A > マンモトーム生検で非浸潤性小葉がんと診断されました。経過観察でもいいのでしょうか?」のページに安井先生が詳細に記述されているので、ご参照ください。手術病理で、術前には判明していなかった非浸潤性小葉癌が含まれていたとのことですが、質問者様の場合の予後(再発の頻度や生存率)を決定するのは、“浸潤癌”に関する因子です。非浸潤性小葉癌に対して、浸潤癌の治療とは別に効果のある治療はありませんし、放っておいてもめったに浸潤性に変わることはないとされています。
長くなりましたが、上記参考にして頂きながら、不明点や不安な点を主治医の先生に相談され、納得されて術後治療をお決めください。再発なく経過されますよう祈っております。
文責:呉共済病院乳腺外科 網岡 愛