トリプルネガティブ乳がんの治療成績について教えて下さい
2020年5月21日 術後治療方針
病期Ⅰのトリプルネガティブ患者の予後(〇年後生存率
2020年3月上旬にエコーで発覚(1年前は未発見)。4/23部分切除、5/12から化学療法開始(FEC療法)。その後、タキサン系抗がん剤、放射線治療の予定。術後の病理検査 病期:Ⅰ(右下18mmリンバ節転移なし)、断端陰性、悪性度:グレード3、Ki67:90%、サブタイプ:トリプルネ
トリプルネガティブ乳がんの術後の治療について:
抗がん剤治療と放射線治療がありますが、抗がん剤治療に関しては手術の前に受けても後で受けても治療成績(遠隔転移率、全生存率)は変わりません。最近は抗がん剤治療の効果判定と腫瘍を縮小させる目的で手術前に受けることが多くなっています。
トリプルネガティブ乳がんの再発時期について:
トリプルネガティブ乳がんの再発時期は2~3年前後で起こることが多いと報告されています。
トリプルネガティブ乳がんの治療成績について:
まず、日本の某がんセンターからの報告では、ホルモン受容体陰性の乳がん(トリプルネガティブ乳がんと一部のHER2陽性がん)では術後の治療をしなければ10年無再発生存率が58.5%、10年生存率61.9%というデータが報告されています。このデータにはHER2陽性乳がんの症例も含まれているので、トリプルネガティブ乳がんに限ればもう少し予後の良いデータになると思われますが、いずれにしても治療をしなければトリプルネガティブ乳がんの場合、全体では30~40%の患者さんは再発すると考えられます1)。
次に、標準的な治療を受けた場合はどうなるのかということですが、トリプルネガティブ乳がんの主な治療は抗がん剤治療です。抗がん剤治療をうけて乳房のがんが完全に消えた場合の5年無再発生存率はおおよそ90%ですが、消えなかった場合は50%に下がります2)。また、3年前に日本と韓国の合同で行われた臨床試験の結果では、手術前の抗がん剤治療で乳房のがんが消えなかった患者さんに内服の抗がん剤治療を6カ月程度行うと行わなかった患者さんと比較して5年無再発生存率が56.1%から69.8%、5年生存率が70.3%から78.8%に改善したという結果が示され、話題になりました3)。
ただし、これらのデータの大半はStageⅡ以上の患者さんのデータなので、相談者の方のようなStageⅠのトリプルネガティブ乳がんの患者さんではもっと予後の良いデータになるでしょう。ちなみにStageⅠのホルモン受容体陽性の乳がんでは10年無再発生存率は90%程度なので、StageⅠのトリプルネガティブ乳癌全体では10年無再発生存率は80%前後ではないかと考えられます。
保険適応外の治療について:
今後、再発予防のために追加で使用される可能性がある薬剤としては、アテゾリズマブ(免疫チェックポイント阻害剤、)、オラパリブ(PARP阻害剤)など、いろいろとありますが、現在は保険適応外ですし、安全性の評価も済んでいないので実際に治療を受けるのは自費であっても簡単ではないと思います。オラパリブ(PARP阻害剤)を追加治療として行うOlympiA*という国際共同治験がありますが、既に症例登録は終了しています。
*OlympiA国際共同治験:
十分な局所性治療及び術前補助療法又は術後補助療法を終了した高リスク生殖細胞系BRCA1/2変異陽性HER2陰性原発乳癌患者に対する術後補助療法としてのオラパリブの有効性と安全性を評価する無作為化二重盲検並行群間比較プラセボ対照多施設共同第III相試験
参考文献
1)Onishi S et al. The overall survival of breast cancer patients without adjuvant therapy. Surgery today(2019)49:610-620
2)Cortazar P et al. Pathological complete response and long-term clinical benefit in breast cancer: The CTNeoBC Pooled Analysis. Lancet (2014)384:164-172
3)Masuda N et al. Adjuvant capecitabine for breast cancer after preoperative chemotherapy. N ENG J MED(2017)376:2147-2159
文責:県立広島病院乳腺外科 尾崎慎治