トリプルネガティブ乳がんで術前化学療法中です。AC療法とアブラキサン、どちらを先にするべきなのでしょうか?

2020年7月13日  , 

3月に一度質問させていただいた者です。またご意見を伺いたく、よろしくお願いいたします。

40代後半、今年2月に乳がん トリプルネガティブと診断されました。
しこりは19mm程度、グレード3、ki67値60%超で、現在術前抗がん剤治療中です。先にアブラキサンを3週間毎に4回、その後AC療法で2週間毎に4回で、今はAC療法の3回目が終わったところです。

2つ質問させていただきます。
3回目のAC療法後8日経ったところですが、3回目投与の後から胸のしこりの辺りに痛みが続いていて腫れも気になっています。
2回目まではそんな症状もなく、前回のMRI検査でも悪い指摘は受けていないのですが、もともと悪性度や増殖率が高いと聞いていますし、手術が近づいて来た頃にこのような症状が出て非常に不安を感じています。
急にがんが大きくなっている可能性がありますでしょうか。

もう一つの質問は、抗がん剤投与の順番についてです。
乳がんのコミュニティの皆さんの情報を拝見していると、AC療法が先でその後にタキサン系を投与されるのが一般的な印象なのですが、順番が違うことで大きな影響はないのでしょうか。

長々と申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。

ご質問ありがとうございます。今回の治療前の乳がん性質を聞いて、第一印象は「きっと高い確率で抗がん剤が良く効くだろうな」と感じる臨床医の先生が多いと思います。
 トリプルネガティブ乳がんは、おっしゃるとおり悪性度や増殖率が高いことが多いことで知られていますが、一方では抗がん剤治療が良く効く場合が多いことでも知られています。術前化学療法を行った場合、完全にがんが消えている状況(病理学的完全奏功 pCR)になる可能性が50%前後あるといわれています。ということは、反対に50%前後の方は術前化学療法後にがんが残っていたり、 術前化学療法中に抗がん剤が効かなくなってしまう方もおられるということでもあります。また、どちらかというといずれの抗がん剤も良く効くという場合が多いのですが、100%効くという抗がん剤治療はないため、アブラキサンで効果があったのにAC療法では効果があまりなかったということもありますし、逆にアブラキサンでは効果があまりなかったのにAC療法ではよく効いたということもあります。残念なことにどちらも効かなかったということもあります。
 今回の場合は胸のしこりの辺りに痛みが続いていて腫れも気になっておられるとのことですが、 まず必要なのはその症状はがんが増悪して症状が出ているのか、それともがんの増悪と関係ない症状(炎症や腫瘍縮小後の反応など)なのかということです。次回の受診時にぜひ主治医の先生に症状を伝えて診察、画像検査等での評価をしてもらってください。増悪しているようであれば術前化学療法を中断して手術を勧められると思いますし、増悪と関係ないのであれば予定通りの術前化学療法を完了してからの手術になると思います。
 もう一つのご質問のAC療法とタキサン系薬剤の投与順についてですが、それぞれの薬剤間で相互作用はないといわれており治療効果については劣ることはないと考えられます。また副作用については同等、もしくは場合によっては軽減( 主に浮腫、骨髄抑制 )されることがあるかもしれません。
 この話はちょうど10年前ごろに海外のみならず日本でもいろいろ論議された時期があります。歴史的には術後にAC療法を行っていたところにタキサン系薬剤を追加投与すると治療成績が改善するということから始まり、AC療法に変わってA(アドリアマイシン)をE(エピルビシン)にしたEC療法やさらに5-FUという薬剤を追加したFEC療法が盛んになり、E (エピルビシン) の投与量をあげたほうが治療効果があがるとの報告があり、AC療法に変わる治療の強度が高くなり副作用も強くなってきました。そのため予定されている術前化学療法の薬剤量が十分に投与できない場面も多くみられるようになり、その解決策のためにタキサン系薬剤を先に投与してAC療法もしくはEC療法やFEC療法を行うという試験が世界各地で行われ、大規模なデータはないもののタキサン系薬剤を先に投与したほうが副作用(主に浮腫、骨髄抑制)が軽くなり、 術前化学療法の薬剤量がより多く投与できて、ひいては治療効果が多少あがるのではという風潮になりました。しかしその後、E (エピルビシン)の投与量をあげても治療効果は変わらない(治療期間を短縮するほうが効果が高い)との報告がされたため、 E (エピルビシン) の投与量 をあげることは少なくなり、治療費用のより安価なAC療法が再び選ばれることが多くなっている気がします。最近では副作用に対する治療の向上もあり、AC療法からタキサン系薬剤の順番で問題なく予定治療が完了することが多く、あえてタキサン系薬剤からAC療法を行うという選択の必要性が低くなっています。
文責:島の病院おおたに 乳腺外科 安井大介