トリプルネガティブ乳がんの診断が腺筋性上皮腫瘍に変化する事はあるのでしょうか?

2022年2月3日   

細胞診と針生検で、トリプルネガティブ乳がんと診断され、乳頭に向かってがんが広がっているため、手術で右乳房を全摘しました。ところが、術後の病理診断結果では、癌になる前の病変、前癌病変(放っておいたら、いずれ悪性の乳がんになる)と言われました。
癌になっていなかったのだから、抗がん剤治療は必要ないとのことで、もう通院の必要はないと言われています。
結果が悪い、ということはあるかと予想していましたが、逆に癌ではない物質が何故浸潤癌と診断されたのか、また、一時期は癌が体に存在していたのに、このあと何もしなくて大丈夫なのでしょうか

非常に稀なケースですので細かい点にはお答えできませんが、一般的なこととしてお答えいたします。

まず「トリプルネガティブ乳がん」ですが、これはER, PgR, HER2のいずれもが陰性の乳がんです。一方、腺筋性上皮腫瘍ですが、腺組織、筋上皮からなる腫瘍で、悪性、良性の両方があります。これは病理学的な分類になります。ですからトリプルネガティブ乳がんと腺筋性上皮腫瘍でが分類の仕方が違うというだけで、質問者の場合、「腺筋性上皮腫瘍(がん)でありトリプルネガティブ乳がん」と術前は診断されたものです。

今回の疑問は、術前の針生検(組織検査)で乳がんと診断されたのに、切除してみると乳がんではなかったということです。組織検査で乳がんと診断されたのであれば、通常は乳がんは確定です。なので、それがどうして前癌病変止まりであると診断されたのか?前癌病変とは、「100%癌になる」というわけではないと思いますので、もう少し説明が欲しいところです。可能性としては、

(1)生検したところは癌だったがそれで取れてしまって他には癌がなかった →これなら納得できます

(2)手術の結果で生検したところを見直したら癌ではなかった→じゃあ手術しなくても良かったのではないのか?術前の診断は正しかったの?

癌でなくて良かったとは思いますが、(1)と(2)では大きく違いますよね。ただ、腺筋性上皮腫瘍は非常に稀な腫瘍で診断は極めて難しいです。乳がんを専門にしている病理医でも診断は難しいと思います(広島大学病院でも最近、腺筋性上皮がんを経験しましたが)。

 

文責:広島大学病院乳腺外科 角舎学行