いつもお世話になっております。
私は術前抗がん剤でAC→ドセタキセル今年の春に手術と放射線治療をしております。ホルモン陽性HER2陰性のHBOCで術後病理結果で腫瘍少しとリンパ節6つありまして、ノルバデックスとベージニオを服用中です。
先週リムパーザが承認されたと知りました。
私としては、ベージニオ2年後にリムパーザ1年かと思いましたら、ベージニオかリムパーザはどちらか1つ。すでにベージニオ開始しており、下痢と吐き気も許容範囲とのことでベージニオを続けてリムパーザはしないとの先生からの説明を受けました。HBOCとわかっているのにリムパーザを使えないことにショックを受けています。
また、仕組みからリムパーザをしたら、卵巣がんなどの予防にもなるのではと思ってました。乳がんにはHBOCならリムパーザ効きますよね。ベージニオは100%効くかはわからないですよね。基準値内ですが、微妙に腫瘍マーカーも上がってます。でも、両方を比較した試験はないが、だいたい同じ成績を残していること、お値段もそうかわらないと説明されました。
本当に両方のお薬の成績は同じなのですか?
途中からスイッチするのも、2つする(合計3年)も良くないというのは本当なのですか?
もしも将来再発や転移や卵巣がん(予防切除してません)になったらリムパーザしてないことに後悔しそうです。
ご意見いただけないでしょうか。
ご質問いただき誠に有難うございます。
まずHR陽性HER2陰性乳癌かつBRCA1/2変異陽性を有する患者さんを対象にした術後療法としてリムパーザとベージニオの有効性を直接比較した試験はありません。そのため両者の優劣は、これまでの研究結果をもとに推測するしか方法はありませんが、HR陽性HER2陰性乳癌に限ると、リムパーザ1年とベージニオ2年投与の再発抑制効果は同等の可能性があるとしかいいようがありません。
リムパーザ術後療法の有効性はOlympia試験で証明されています。Olympia試験では標準治療に比較してリムパーザ1年を追加することにより約4割再発が減ることが証明されています。一方で、Olympia試験に登録された症例の大部分はtriple negative乳癌であり、HR陽性HER2陰性乳癌が占める割合は20%弱となることに留意する必要があります。HR陽性HER2陰性乳癌に限ると再発抑制効果は約3割となります。
ベージニオ術後補助療法の有効性はMONARCH-E試験で証明されています。MONARCH-E試験では標準治療と比較してベージニオ内服2年を施行することにより約3割再発が減ることが証明されています。MONARCH-E試験は全例HR陽性HER2陰性乳癌が対象となります。
リムパーザとベージニオを同時投与または順次投与する治療法の研究はなされておらず、そのため有効性も安全性も分かりません。そのため実臨床で施行することは困難です。
BRCA1/2変異患者さんは予防的卵巣切除が推奨されています。理論的にはリムパーザを投与により卵巣がんのリスクが減少する可能性がありますが、その効果を実証した試験はありません。よってリムパーザ投与が卵巣がん予防的切除の代わりとなることはありません。
以上のことから以下の選択が挙げられます。
① 当初の予定通りにベージニオ2年間完遂する。以後は内分泌療法を継続する。
② ベージニオを中止して、リムパーザ1年間内服に切り替える
ご検討のほどよろしくお願いします。
文責:呉医療センター乳腺外科 重松 英朗