乳房全切除+センチネルリンパ節生検をしましたが、リンパ浮腫は大丈夫でしょうか?

2020年12月1日   

今年8月末、非浸潤乳がんで全摘手術をしました。術中のセンチネルリンパ節生検のみで、腋窩リンパ節郭清はしていません。センチネルリンパ節生検のみでも、腕の浮腫が起こる可能性は、ゼロではないと聞き心配です。術側で注射をしない・血圧を測らない等は、分かるのですが、重いものを持たないの程度が、よくわかりません。スーパーの袋を持ったり、腕にかけたりがダメなのはわかりますが、両手で段ボール箱を運んだりするのも、避けた方がよいのでしょうか。日常生活で何kgくらいなら大丈夫。というのは、ありますか?

手術をはじめ、初期の治療が終わったものの、術後の後遺症について、色々と不安になられると思います。少しでも不安が取り払えるように、質問にお答えします。センチネルリンパ節生検をおこなうことで、腕のリンパ浮腫発症はずいぶん減ってきましたが、ゼロではなく、実際に発症した患者さんを診察することもあります。リンパ浮腫について簡単におさらいします。
まず、術後のリンパ浮腫発症の原因は、①リンパの流れが途切れる、②リンパ液の量が増える、このふたつだと覚えてください。①の原因の最大は腋窩リンパ節郭清、です。その他はリンパ節領域への放射線照射などです。②の原因の最大は、感染(手術した側の腕)、ドセタキセルを使用した化学療法、です。
以上のことはデータがはっきり出ており、ガイドラインにも書いてあります。私がまとめて、乳がん学会で発表したデータでも腋窩リンパ節郭清 約5倍、放射線照射 約4倍、ドセタキセル 約5倍のリスクでした。以前から、上記したリンパ浮腫の原因①②から、こんなことをしたらきっと発症するだろう、と考えられていたのが、①は血圧測定、肩や腕に荷物をかける、②は採血、注射、熱い風呂にはいる、重い荷物を持つなどです。しかし、それらははっきりとしたデータはなく、むしろ採血・血圧測定はリンパ浮腫とは関係ないというデータがでています。リンパ浮腫のリスクが高いかた以外は大丈夫です。質問の、重いものを持つ、ですが、コレもはっきりとしたデータはありませんが、このことに気をつ
け過ぎるために、日頃から手術した側の腕を過保護にすると、良くありません。日頃からストレッチをしたり、日常で腕を使用しておいてください。むしろそうすることが予防につながるというデータがたくさんでています。日頃過保護にしているのに、急に使う、しかも長時間は、良くありません。その場合は上記の②に相当することが生じてきます。 良く質問されますが、日頃あまり使わないかたは1kg以内、しっかりストレッチなどしているかたは、短時間なら4kg大丈夫、などと説明していますが、発症リスクや、そのかたの年齢・体重・生活スタ
イルにもよりますので、主治医の先生に質問してみてください。
質問者は、非浸潤がんで全摘・センチネルリンパ節生検、術後治療なしですので、腋窩リンパ節郭清・放射線照射・化学療法などの大きなリスク因子はなく(ちなみに温存療法だと、温存乳房への放射線照射があり、少しリスクが上がります)、体重管理・運動・ストレッチ(特に腹式呼吸)・スキンケア・感染予防をされていれば、まず発症することはないと考えます。

 

文責:香川乳腺クリニック 香川直樹先生