男性乳がんトリプルポジティブの術後治療について

2021年8月10日  , 

男性乳がんと診断され、乳房摘出手術を受けました。
病理検査の結果が出ましたので、今後の治療についてご相談させてください。

『病理検査結果』
浸潤がん 硬癌  16×15×16mm  pT1c  リンパ節転移 0/5,pN0(sn)  断端までの距離 胸壁側#4 浸潤がん2mm  静脈浸潤 vy0 v0  組織学的グレード 1
ER >66%(5)強度 強3  PgR>66% 強度 強3
MIB-1 index30%  HER2 scor3+

医師から提案されたのが、

TC4コース+ハーセプチン17回+タモキシフェン

の治療法でした。色々と調べていると、Wパクリタキセル+ハーセプチン+ホルモン治療 という選択肢もあるのかな?と思いますが、TCの方が再発率を抑えられるのでしょうか? Wパクの件を主治医に聞いてみたところ、一昔前はそういうこともやっていたけど、、、という少し曖昧な返事と推奨していないのかな?という印象を受けました。
病理検査の結果や男性乳がんということから、どの治療方が最善だと思われますか?アドバイスいただければ幸いです。希少な男性乳がんといえ、病理検査の結果から早期と捉えていいのでしょうか?
また、家系的に遺伝性乳がんの可能性もあると言われています。(今後遺伝子検査も検討しています。)
もし遺伝性乳がんの場合、男性の場合は今後どのような点に気をつけ、どのような定期的な検査を受けていけば良いでしょうか?

ご質問ありがとうございます。希少な男性乳がんのため、いろいろご不安なのだろうと思います。

まず、男性乳がんは希少であり、また、乳がんの臨床試験に男性患者さんが組み入れられることはほとんどないため、男性乳がんの管理に関しては、一般に女性乳がんに焦点を置いた臨床試験の知見から外挿されたものが推奨されます。(NCCNガイドライン) つまり、男性乳がんは女性乳がんと比べいくらか相違はあるものの、全体的には女性乳がんと同様な診断および治療を行います。

病理検査の結果からはステージ1と診断されますから、早期乳がんです。(乳癌取り扱い規約ではステージ0, 1が早期乳がんと定義づけられています。)そして、ホルモン陽性HER2陽性乳がん(ルミナールHER2乳がんといいます)ですから、術後補助薬物療法は、化学療法+抗HER2療法、ホルモン療法を行います。

化学療法+抗HER2療法の選択ですが、質問者様の場合はリンパ節転移がないHER2陽性乳がんステージ1ですので、再発リスクは比較的低く、パクリタキセル+ハーセプチンもTC+ハーセプチンも同程度の効果と考えられます。

過去のQ&Aもご参照ください。

https://pinkribbon-h.com/qa/qanda/%e3%83%88%e3%83%aa%e3%83%97%e3%83%ab%e3%83%9d%e3%82%b8%e3%83%86%e3%82%a3%e3%83%96%e4%b9%b3%e3%81%8c%e3%82%93%e3%81%ae%e8%a1%93%e5%be%8c%e6%b2%bb%e7%99%82%e3%81%ab%e3%81%a4%e3%81%84%e3%81%a6%e6%95%99/

TCはむしろ好中球減少の有害事象で、G-CSF製剤(ジーラスタ)を併用する必要があるという懸念があります。副作用のことも含め主治医とご相談ください。

男性乳がんの術後ホルモン療法はタモキシフェンでよいと思います。

また、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC:Hereditary Breast and Ovarian Cancer)についてですが、遺伝子検査を受けられてその結果HBOCと診断された場合、遺伝カウンセリングを受けて、乳がん、前立腺がん、膵がんのサーベイランス(病的バリアント保持者に対し、がんのハイリスク臓器に対してきめ細かく計画的に検査を行うためのがん予防策)を行っていくことになります。(遺伝性乳癌卵巣癌診療ガイドライン 2021年版)

乳がんに対しては、がんの発生因子を取り除く一次予防と、がんの早期発見・早期治療の二次予防があり、一次予防としては反対側の乳房切除(リスク低減乳房切除)が考えられますが、男性の場合、根拠に乏しく、積極的には推奨されていません。また、二次予防としては、NCCNガイドラインによれば、35歳からの乳房自己触診の開始と1年に1回の医療機関での視触診が推奨されています。マンモグラフィに関しては、有用性についての報告がありますが、推奨までには至っていません。

前立腺がんに対しては、40歳からのPSAによるサーベイランス行うことが条件付きで推奨されています。

膵がんに対しては、少なくとも1人の第一度近親者に膵癌の家族歴のあるBRCA2、BRCA1病的バリアント保持者に対し、MRIまたは超音波内視鏡を用いたスクリーニングが考慮されます。

具体的な内容については、遺伝カウンセリングでご相談ください。

文責:JA尾道総合病院 乳腺外科 吉山 知幸