非浸潤がんの診断だったのにセンチネルリンパ節に微小転移がありました。どうしてでしょうか?
術後の病理結果にて非浸潤性乳管癌ではありましたが、センチネルリンパ節にN0(i+)の遊離腫瘍細胞が認められまし
ホルモン受容体陽性
HER2+2
ki 30%
グレード2
とのことでした。
主治医からはタモキシフェンの服用を勧められましたが、それで十
HER2+2というところやki値がやや高いのが気になります。
あと非浸潤性乳管癌なのになぜセンチネルリンパ節にがんのかけら
当方24歳での疾患です。年齢なども含めてタモキシフェンのみで
ご相談されている内容のケースは稀にですがあります。本来、転移を起こさないはずのDCIS症例でセンチネルリンパ節に乳癌細胞が確認される場合には以下の二つが原因として考えられます。
- 手術前の検査ではDCISの診断であったが、手術後の病理検査で小さな浸潤癌があり、リンパ節転移を起こしていた。
- 手術前に行った組織生検(針生検、マンモトーム生検、開創生検など)によってこぼれた乳癌細胞が偶然リンパ管に入り、リンパ流によってリンパ節に流れ着いた。
前者については既に病理診断が終わっていますのでここでどうこう言えないと思います。後者について調べた以下の研究論文がありましたのでそれをもとにお答えします。
Francis AM et al. Is Sentinel Lymph Node Dissection Warranted for Patients With a Diagnosis of Ductal Carcinoma In Situ? Ann Surg Oncol. 2015 Dec;22(13):4270-4279.
この研究論文では②の問題について「組織生検の回数」と『センチネルリンパ節の転移陽性率』との関係を調べることで検証しています。
- DCISの術前診断であってもセンチネルリンパ節生検を受けられた患者さん907人を対象にしています。これらの患者さんは術後診断でもDCISでしたが、907人中56人(2%)にセンチネルリンパ節に転移を認めました。この論文では組織生検の回数について以下の様に定義されています。
組織生検の回数=針生検(あるいは吸引式組織生検)で採取した本数と開創生検の回数の合計
例1)針生検2本と開創生検0回→組織生検の回数=2回
例2)針生検1本と開創生検1回→組織生検の回数=2回
例3)針生検3本と開創生検1回→組織生検の回数=4回
「組織生検の回数」と『センチネルリンパ節の転移陽性率』を調べた結果、以下の結果が得られました。
組織生検の回数1~2回:センチネルリンパ節の転移陽性率=4.3% (22/511人)
組織生検の回数3回 :センチネルリンパ節の転移陽性率=7.0% (19/270人)
組織生検の回数4回 :センチネルリンパ節の転移陽性率=8.8% (7/80人)
組織生検の回数5回 :センチネルリンパ節の転移陽性率=17.4% (8/46人)
組織生検の回数が4回以上の患者さんは組織生検の回数が1~2回の患者さんに比べて2倍以上の転移陽性率であったという結果が示されています。組織生検の回数が増えることで転移陽性率も増えるということは、組織生検という機械的な侵襲が癌細胞がリンパ管に入りこんでリンパ節に流れ着くことに関係しているのではないかと推察されています。しかし、直接的な証拠はないのでなんとも言えません。
この論文では、手術後の病理検査で浸潤癌を認めずDCISの最終診断であった患者さんでは、転移陽性でも孤立性腫瘍細胞(ITC:0.2mm以下の転移)が78.6%(44/56)、微小転移(2mm以下の転移)が21.4%(12/56)であり、マクロ転移(2mmを超える転移)はありませんでした。また、5年での無病生存率は転移陰性のDCIS患者さんと有意差はなく(100% vs 99.7%)、予後についても心配はないようです。リンパ節に癌細胞が存在していたとしてもDCISの癌細胞なので微量であれば増殖しないのではないかと考えます。一方、手術後の病理検査で浸潤癌や微小浸潤癌の病巣が見つかった患者さんではマクロ転移を認めた例もあり、5年での無病生存率も96.5%、91.7%と低下していますので注意が必要です。
相談者の方の場合、術前の組織生検の方法、術式、DCIS病変の大きさ、DCISのグレードなど、詳細は不明ですが、最終病理診断がDCISでセンチネルリンパ節の転移がITCなので、それほど再発についての心配はないように思いますし、抗がん剤治療は不要と考えます。
文責:県立広島病院乳腺外科 尾崎慎治