トリプルネガティブ乳がんで術前化学療法ではnon-pCRでした。術後補助療法としてTS-1とゼローダではどちらが良いでしょうか?

2020年6月12日   

いつも楽しくブログを拝見させていただいております。お忙しい中、本当にすごいなと思っております。ブログを通じてたくさん勉強しました!

さて、私は、TNBCで術前化学療法(FEC+Doc)を計8クール受け、手術を行いました。臨床的にはCRでしたが病理組織で残遺癌(ypT1a, ypN1c)が見つかり放射線照射中です。このような場合、次の治療に再発予防としてゼローダを使用することが多くなってきていると思うのですが、主治医からTS-1を1年間内服する治療を勧められました。どちらも同じFU系の薬とはいえ、大腸がんの治療などではゼローダに対するTS-1の非劣勢を示せなかったり、効果が落ちるのではないかと不安を感じます。主治医もCARTE-Xの結果は知っていると思いますが、ゼローダの副作用がコントロールしにくいために処方しないのだと想像しています。

そこで質問です。
1、TS-1でもゼローダのような再発予防効果が期待できると思いますか?
2、実際にゼローダを処方している先生方の感触としてゼローダの副作用(手足症候群など)はかなり大変なものなのでしょうか。育児や家事ができなくなる患者さんがかなり多いでしょうか?

ご質問ありがとうございます。体調はいかがでしょうか。

トリプルネガティブタイプの乳癌に対し術前化学療法を受けられ、画像的には腫瘍は消失しましたが病理組織では残っていたという状況(non-pCR)ですね。ご存知のように、HER2陰性の乳癌に対し術前化学療法後にpCRが得られなかった方を対象に、術後にゼローダを半年間追加することで生存期間を有意に改善させることが、第Ⅲ相試験(CREATE-X)で証明されました。主治医の先生から提案されたTS-1は、ホルモン受容体陽性、HER2陰性の乳癌に対し術前治療でpCRが得られなかった方を対象にホルモン療法に加えTS-1を1年間内服することで、再発を有意に抑制することが、昨年報告されました(POTENT試験)。質問者様の乳癌組織はトリプルネガティブタイプなので、ゼローダが推奨されます。トリプルネガティブに対するTS-1の再発予防効果はデータがないので不明です。副作用はそれぞれ特徴が異なり、どちらが強いとは言えません。ゼローダであれば手足症候群、下痢、TS-1であれば下痢、食欲不振、口内炎が問題となりやすいです。ゼローダは10人中1人くらいの割合で日常生活に支障がでるような強い手足症候群が報告されており、予防(保湿・除圧)、早期の対応(ステロイド軟膏、痛みが出れば休薬)が重要です。どちらの薬剤も現時点では術後の保険適応はありませんし、主治医の先生とよくご相談されるようお勧めします。

 

文責:県立広島病院臨床腫瘍科 土井美帆子