病理検査で皮膚側断端が陽性の対応について教えてください

2020年11月9日  , 

56歳です。乳房温存手術後、病理検査結果が出ました。
浸潤性乳管癌 ステージI リンパ節転移なし リンパ管、血管侵襲陰性
ER陽性 PR陽性HER2 (2+) HER2 遺伝子増幅あり 断端は皮膚側で陽性
以上の結果から、術後治療は、抗HER2 療法1年間と、抗がん剤
その後、乳房への放射線治療、内分泌療法と、言われました。
皮膚側断端の陽性については、先生は手術中にも、予期していたことをおっしゃり、放射線治療で大丈夫と言われて、帰ってきました。しかし、帰宅後、調べてみると、断端陽性は再手術などとでており、皮膚側の陽性については、放射線治療で大丈夫という記載は見つけられませんでした。皮膚側ですと、放射線治療の効果が高くて、再発のリスクは低いのでしょうか。また、抗がん剤などの治療後、1年を経過しての放射線治療で、その間の再発も心配です

乳房温存術後の断端陽性か陰性については、私たち臨床医も常に注意を払っている項目です。乳房温存術後の断端陽性の場合、推奨される対処法について乳癌診療ガイドライン2018年版では「外科的切除を“弱く”推奨する」と記載されています。“弱く”という推奨度になった理由は、断端陽性症例で外科的切除を行った群と行わなかった群での前向きの比較試験の結果がないためです。しかし、複数の後ろ向きの観察研究の報告をまとめた解析(メタアナリシス)によると断端陽性の場合、2倍の局所再発のリスクがあり、全身治療(薬物療法),放射線治療の追加(ブースト照射追加),ホルモン受容体の有無に関わらず、その傾向は変わらなかったと報告されています 1)2) 。温存乳房内の局所再発を減らすこと
が乳癌死を減少させるということは複数の研究のまとめ(EBCTCG(ヨーロッパの乳がん臨床研究グループ)メタアナリシス)で報告されていますので、病理診断で切除断端に露出があり、癌病変の遺残が予想される場合には、局所再発のリスクを低減するために外科的切除を考慮することが多いと考えます。
問題は、病理診断における断端陽性には多様なケースが存在するということです。画像で描出し得なかった多量の癌が残っている状況から,ごく少量の癌しか遺残していない状況が想定されます。また癌細胞の性質によっては,癌遺残があっても術後の放射線療法や全身治療で長期間コントロールされるものや,少量の癌遺残であっても直ちに再発をきたすものがあります。したがって断端の状況に加えて癌の性質等も考慮した総合的な判断をもとに,適切と考えられる追加治療を決める必要があります。
補足ですが、ここで検討されている断端陽性例の多くは、側方断端陽性のことであり、皮膚側断端陽性例は少数ですので、皮膚側断端についてまとめたエビデンスのある研究報告ではありません。
相談者様の場合、1.リンパ節転移、リンパ管・血管侵襲陰性のない、StageⅠの早期乳がんであること、2.皮膚側断端陽性の診断であるが、遺残病変はあったとしても少量であり、経過観察しやすい場所であること、3.薬剤感受性があり、薬物療法が効果的であること などを考慮すると薬物療法、放射線治療で対処可能であり、局所再発のリスクは低く、生命予後には影響しないのではないかと考えます。おそらく担当医の先生も薬物療法、放射線治療で十分に対処可能な状況とお考えになっているのだと思いますので、もう一度相談され、相談者様が心配のない状態で術後の治療に臨まれることをお祈りします。
参考文献)
1)乳がん診療ガイドライン2018 外科療法 CQ2.浸潤性乳管癌/非浸潤性乳管癌に対する乳房温存手術において,断端陽性と診断された場合に外科的切除は勧められるか?
2)Buchholz TA, Somerfield MR, Griggs JJ, El―Eid S, Hammond ME, Lyman GH, et al.Margins for breast―conserving surgery with whole―breast irradiation in stageⅠ and Ⅱinvasive breast cancer:American Society of Clinical Oncology endorsement of the Societyof Surgical Oncology/American Society for Radiation Oncology consensus guideline. J Clin Oncol. 2014;32(14):1502―6.

 

文責:県立広島病院乳腺外科 尾﨑慎治