乳がんの術後ホルモン療法をやらずに不妊治療をしています。どれくらいの期間ならホルモン療法開始を遅らせることが出来ますか?

2020年4月16日  , 

ルミナールタイプの癌になり、手術しました(ステージ1)。妊娠の希望がありホルモン療法を行わずに不妊治療を受けています。主治医とも相談のうえ、ホルモン療法を行わないまま不妊治療を進めていますが、ホルモン療法を行わないことによる転移のリスクはどの程度ありますか?また、なかなか妊娠に至らず不妊治療の期間が延びているのですが(現在で術後1年半程度)、どのぐらいの期間不妊治療を行えますか?
その他、2人目の希望があるのですが、その場合、ホルモン療法を受けるタイミングや妊活と治療のスケジュールはどのように考えるべきでしょうか?
(主治医は、年齢的なことなどからも2人続けて産むのがよいと仰って下さるのですが、問題ないのでしょうか?一人目出産後、数年ホルモン療法を受け、2人目を考えるべきでしょうか?)
最後に、現在、コロナで不妊治療の延期の声明が出ており、治療が出来なくなる可能性もあります。
その場合、不妊治療を止め、先にホルモン療法をし、コロナが終息しましたら再度ホルモン療法を中断し、不妊治療を再開するか、
不妊治療もホルモン療法も行わず、自然妊娠を待ち、コロナが終息しましたら不妊治療を再開するかの二択になりそうなのですが、どちらが懸命な判断になりますか?
不妊治療でさえ長引いておりますのにコロナで更にホルモン療法の開始が遠くなりそうで悩んでおり、術後何年もホルモン療法をせずにいて大丈夫なのかや、ホルモン療法を中途半端に挟んで大丈夫なのかなどといった点につきまして、教えていただきたいです。

乳がんの術後ホルモン療法を中断して妊娠することに関する安全性について検証する国際共同臨床試験(POSITIVE試験)が現在進行中で、この結果によってご自身の疑問には正確にお応えできるかと思いますが、結論が出るのはまだ何年も先のことです。これまでに分かっていることから回答させていただきます。
ご自身のがんの情報を当てはめて再発リスクを調べることができるサイトがあります。
predict breast cancer( https;//breast.predict.nhs.uk/
核グレード(1,2,3のいずれかです)に関しての情報がありませんでしたので、各パターンでの手術だけを行った場合と5年間ホルモン療法を受けた場合の10年生存率について調べると以下の通りになります。
核グレード    手術だけ   5年ホルモン療法
  1       94%      96%
  2       90%      93%
  3       82%      87%
また、EBCTCGという早期乳癌国際連携グループによる調査では、術後ホルモン療法としてのタモキシフェンを全く飲まなかった人と比較して再発リスクは、1-2年飲んだ人では26%減り、5年内服した人では41%減っているという結果でした。これは、治療を止めた後の妊娠を前提としていませんし、術後治療をすぐに初めてその後何年で止めたかという条件でのデータです。
ご自身の場合はホルモン療法を中断ではなく、行っていない状況ですからあくまで参考程度になりますが、タモキシフェンを全く飲んでいない人に該当されますので、5年間内服した方と比べると倍近く再発リスクが上がるということになります。
これに生殖補助医療や妊娠という状態が加わった時のリスクの変化は残念ながらわかっていません。
これからホルモン療法を開始した場合の再発リスクを低下させる効果についてもはっきりとしたデータはありませんが、内服されることでリスクが低下することは期待できるかもしれません。
数字だけをみると、ご自身の条件ではホルモン療法を受けることによるメリットがあまりないように感じられるかもしれません。なにより、治療と妊娠とどちらを優先するかという問題はご自身とご家族のお気持ちやお考えにもよります。
乳がん治療中の妊娠についてはまだはっきりわかっていないことが多いため釈然としない内容となりますが、ご自身が不安に思ってらっしゃる「再発するのでは?」ということに関して様々な価値観を含めて見守ってくださる素敵な担当の先生と、その不安についてはしっかりお話合いなさりながら選択していただければと思います。
文責:広島大学病院乳腺外科 恵美純子