センチネルリンパ節が見つかりませんでした。腋窩リンパ節郭清が必要でしょうか?

2020年4月21日   

針生検の結果、硬性型・グレード3・腫瘍1.6mm・Ki67 10%・HER2‐・ルミナールAと診断されております(術後病理結果はこれからです。) 術前検査(PET・造影MRI・CT)で遠隔転移、リンパ節転移なしで術中にセンチネルリンパ節生検を実施するとの事でしたが、センチネルリンパ節が見つからず(肥満の為だと思われます)、(1)無理に行うと他の神経や血管を傷つける可能性がある事 (2)術前検査でリンパ節に転移が見られなかった事 (3)部分切除の為、術後に放射線治療を行う事(その後ホルモン治療)これをふまえ、センチネルリンパ節生検は行ないませんでしたとの説明がありました。色々調べても、センチネルリンパ節生検が行えない場合は腋窩リンパ節郭清をしなければならないとしか出てきません。できれば腋窩リンパ節郭靖はしたくありませんが、この判断で良いのかと不安です。

手術の際にセンチネルリンパ節が同定できなかったのでどうすればよいのか?という質問として回答させて頂きます。エビデンスのない臨床上の疑問点なので乳がんの診療ガイドラインにもこれに対する明確な回答はありませんが、私たちが実際の臨床ではどう考えて対処しているのかを説明します。         ルミナルAという比較的悪性度の低い乳がんなで、実際の臨床では以下の条件を満たせば 質問者 様が手術を受けられた施設と同様に腋窩リンパ節郭清は行わない施設も少なくないと思います。

条件:

  • 画像所見(超音波検査、CT検査など)で腋窩リンパ節転移を疑う所見がなかった。
  • 手術後に標準的な治療(①薬物療法、②放射線治療)を受けることが可能
  • 術後の定期的な通院が可能

一方、腋窩リンパ節郭清を省略しても安全であるというエビデンスがないので腋窩リンパ節郭清を推奨する施設もあると思います。現在、海外(イタリア、アメリカ)で超音波検査でリンパ節転移が疑われない乳がん患者さんをセンチネルリンパ節生検を行わないグループとセンチネルリンパ節生検を行うグループに振り分けて再発率を前向きに調べる臨床試験1)2)が進んでおり、この結果で再発率に差がないようであればセンチネルリンパ節生検さえも省略されるようになるかもしれません。

参考文献)

1)Gentilini O, Veronesi U. Abandoning sentinel lymph node biopsy in early breast cancer? A new trial in progress at the European Institute of Oncology of Milan (SOUND: Sentinel node vs Observation after axillary UltraSouND). Breast. 2012 Oct;21(5):678-81

2)Cyr AE et al. Successful Completion of the Pilot Phase of a Randomized Controlled Trial Comparing Sentinel Lymph Node Biopsy to No Further Axillary Staging in Patients with Clinical T1-T2 N0 Breast Cancer and Normal Axillary Ultrasound.J Am Coll Surg. 2016 Aug;223(2):399-407

 

文責:県立広島病院乳腺外科 尾崎慎治