トリプルポジティブ乳がんの術後治療について教えて下さい
先日病理結果が出て、術後治療に疑問がありますのでご
硬性型>粘液癌 温存手術 浸潤径20㎜ リンパ節転移なし リンパ菅浸潤なし
静脈浸潤なし ステージ1
ki67 25% NG2 HG2 ER100% PgR20% HER2 +3
術後治療はドセ、ハーセプチン4回 放射線治療 週4回 合計18回 ハーセプチン1年間 タモキシフェン10年
ギリギリのステージ1なため、初期治療をしっかりして再発を防ぎ
ドセタキセル+ハーセプチン
パクリタキセル+ハーセプチン
は同程度の効果は認められますか?TCの場合はドセにシクロホス
ステージ1にどの治療方法を選ぶ基準などはありますか?ドセ単剤な事が不安です。他の治療方法と予後は変わらないでしょうか?
まず、初期乳癌に対する術後補助化学療法で、ドセタキセル+ ハーセプチン vs パクリタキセル+ ハーセプチンを直接比較したデータはありません。
しかし、まだハーセプチンが術後補助療法に使われていない時期、 1999-2002年の、初期乳癌に対する術後補助化学療法で、 AC療法後にタキサンの化学療法を行うという試験で、 ドセタキセルとパクリタキセルを比較し、 毎週投与パクリタキセルと3週毎投与ドセタキセルが同等の効果が あるものとされています(NEJM 2008) 。
具体的には、腫瘍径が2cm超、 または腋窩リンパ節転移がある再発高リスク乳癌症例4950例に 対し、AC療法後にタキサンを投与する試験で、タキサンを3週毎 投与パクリタキセル、3週毎投与ドセタキセル、 毎週投与パクリタキセル、 毎週投与ドセタキセルの4群に分けて予後を比較し、 結果は3週毎投与パクリタキセル に比べて毎週投与パクリタキセル と 3週毎投与ドセタキセル の無病生存率が良好でした。以後、タキサンの投与方法としては、 毎週投与パクリタキセルと3週毎投与ドセタキセルが同等の効果が あるものとして使用されています。
そのため、タキサンにハーセプチンを追加投与する場合も、 3週毎投与ドセタキセルと毎週投与パクリタキセルが同等の効果と 考えられ、使用されています。
また、早期HER2陽性乳癌については、 乳癌診療ガイドラインに2つ記載されています。1つ目は、腫瘍径 が3cm以下でリンパ節転移がないHER2陽性乳癌症例406例 を対象にパクリタキセル+ ハーセプチンで術後療法を行った試験で、 3年無浸潤疾患生存期間が98.7% と良好な結果が報告されていて、2つ目は、 早期HER2陽性乳癌症例493例を対象としたTC( ドセタキセル+シクロホスファミド)+ ハーセプチンによる術後療法を行った試験で, 2年無病生存期間が97.8%と良好な結果が報告されています。単純に比較することはできませんが、早期乳癌に対しては、 パクリタキセル+ハーセプチンもTC+ ハーセプチンも同程度の再発抑制効果があると考えられます。
リンパ節転移があるか再発高リスクのHER2陽性乳癌の場合、 AC(EC)療法→ハーセプチン+パージェタ+タキサン( ドセタキセルあるいはパクリタキセル) が最もよいと考えられますが、リンパ節転移がないHER2陽性乳 癌ステージ1では、再発リスクが比較的低いため、タキサン( ドセタキセルあるいはパクリタキセル)+ハーセプチンもTC+ ハーセプチンも同程度の効果と考えられます。 TCはむしろ好中球減少の有害事象で、G-CSF製剤( ジーラスタ)を併用する必要があるという懸念があります。
よって、ドセタキセル+ ハーセプチンで十分という意見は妥当だと思います。
文責:尾道総合病院乳腺外科 吉山知幸