トリプルポジティブ乳がんの術後治療について教えて下さい

2020年7月13日  ,, 

先日病理結果が出て、術後治療に疑問がありますのでご相談お願い致します。

硬性型>粘液癌 温存手術 浸潤径20㎜ リンパ節転移なし リンパ菅浸潤なし
静脈浸潤なし ステージ1
ki67 25% NG2 HG2 ER100% PgR20% HER2 +3

術後治療はドセ、ハーセプチン4回 放射線治療 週4回 合計18回 ハーセプチン1年間 タモキシフェン10年

ギリギリのステージ1なため、初期治療をしっかりして再発を防ぎたいと思っています。抗がん剤なのですが、HER2+3、ステージ1でスタンダードはパクリタキセル+ハーセプチン、ドセの場合はTC+ハーセプチンというのを非常に多く見かけます。しかし医師からドセ単剤+ハーセプチンで充分との事で提案されました。が、調べるうちに私より初期の癌でも徹底的に抗がん剤をしている人もいる上、ドセは単剤では余り使われないということが解りました。ドセ+ハーセプチンのデータがあまり見つかりません。しかしパクリタキセルとドセタキセルは同程度の効果があるとの事でドセ+ハーセプチンでも大丈夫なのでしょうか?
ドセタキセル+ハーセプチン
パクリタキセル+ハーセプチン
は同程度の効果は認められますか?TCの場合はドセにシクロホスファミドを足すので、パクリ単剤、ドセ単剤よりは強力に癌に作用するのでしょうか?
ステージ1にどの治療方法を選ぶ基準などはありますか?ドセ単剤な事が不安です。他の治療方法と予後は変わらないでしょうか?

まず、初期乳癌に対する術後補助化学療法で、ドセタキセル+ハーセプチン vs パクリタキセル+ハーセプチンを直接比較したデータはありません。
しかし、まだハーセプチンが術後補助療法に使われていない時期、1999-2002年の、初期乳癌に対する術後補助化学療法で、AC療法後にタキサンの化学療法を行うという試験で、ドセタキセルとパクリタキセルを比較し、毎週投与パクリタキセルと3週毎投与ドセタキセルが同等の効果があるものとされています(NEJM 2008) 。
具体的には、腫瘍径が2cm超、または腋窩リンパ節転移がある再発高リスク乳癌症例4950例に対し、AC療法後にタキサンを投与する試験で、タキサンを3週毎投与パクリタキセル、3週毎投与ドセタキセル、毎週投与パクリタキセル、毎週投与ドセタキセルの4群に分けて予後を比較し、結果は3週毎投与パクリタキセル に比べて毎週投与パクリタキセル と 3週毎投与ドセタキセル の無病生存率が良好でした。以後、タキサンの投与方法としては、毎週投与パクリタキセルと3週毎投与ドセタキセルが同等の効果があるものとして使用されています。
そのため、タキサンにハーセプチンを追加投与する場合も、3週毎投与ドセタキセルと毎週投与パクリタキセルが同等の効果と考えられ、使用されています。
また、早期HER2陽性乳癌については、乳癌診療ガイドラインに2つ記載されています。1つ目は、腫瘍径が3cm以下でリンパ節転移がないHER2陽性乳癌症例406例を対象にパクリタキセル+ハーセプチンで術後療法を行った試験で、3年無浸潤疾患生存期間が98.7%と良好な結果が報告されていて、2つ目は、早期HER2陽性乳癌症例493例を対象としたTC(ドセタキセル+シクロホスファミド)+ハーセプチンによる術後療法を行った試験で,2年無病生存期間が97.8%と良好な結果が報告されています。単純に比較することはできませんが、早期乳癌に対しては、パクリタキセル+ハーセプチンもTC+ハーセプチンも同程度の再発抑制効果があると考えられます。
 
リンパ節転移があるか再発高リスクのHER2陽性乳癌の場合、AC(EC)療法→ハーセプチン+パージェタ+タキサン(ドセタキセルあるいはパクリタキセル)が最もよいと考えられますが、リンパ節転移がないHER2陽性乳癌ステージ1では、再発リスクが比較的低いため、タキサン(ドセタキセルあるいはパクリタキセル)+ハーセプチンもTC+ハーセプチンも同程度の効果と考えられます。TCはむしろ好中球減少の有害事象で、G-CSF製剤(ジーラスタ)を併用する必要があるという懸念があります。
よって、ドセタキセル+ハーセプチンで十分という意見は妥当だと思います。
文責:尾道総合病院乳腺外科 吉山知幸