トリプルネガティブ でBRCA遺伝子検査陽性と診断されました。今後の治療、手術について教えてください

2020年9月29日   

4年前に右側乳癌1.5センチのステージ1で見つかり、術前抗がん剤、ハーセプチン、部分切除、放射線をしました。その後経過観察で順調に過ごしていたのですが、今年5月に反対側の胸にシコリを見つけ、検査の結果、トリプルネガティブ、大きさは1.5センチで、6月より術前抗がん剤をしています。後半の抗がん剤ドセタキセルの2回目が終了したところです。前半の抗がん剤で腫瘍は殆どなくなっている状態です。
そんななか、遺伝子検査を進められ陽性と判明してしまいました。
今後の治療や手術の事で不安です。
遺伝子検査陽性と言うことで、全摘になると言う事ですが、小さい子供が居り、ショックを少しでも与えないように同時再建を希望したいのですが、術前抗がん剤をした人は無理なのでしょうか。
遺伝子検査陽性なので、4年前温存している方も全摘した方が良いそうなのですが、タイミングや、再建方法など最適と思われる方法を教えて頂きたいです。セカンドオピニオンも利用した方が良いのでしょうか。よろしくお願いします。
手術が迫っていますので、早めの返答頂きたいです。

手術に向かって化学療法も頑張られている中、限られた時間でいろいろな選択をしなければならないこと
本当に大変でらっしゃると思います。
ご自分が遺伝性乳がん卵巣がん症候群であることが術前にわかった場合、手術方法を選ぶときに参考にできます。
表現が大変に細かい話ですが、ご自身のように温存術が十分に可能な状態で手術に向かう時に、遺伝性による温存乳房に二度目の乳がんができる可能性や、もう片方の乳房に乳がんができる可能性を考えて「乳房切除をしたほうがよい」ではなく、「リスクを鑑みて乳房切除や同時のリスク低減手術も4月からは特に保険診療として同時に検討できます」というのが正しい表現になるかと思います。
BRCA遺伝子に病的変異をもつHBOC乳がん患者さんとそうではない乳がん患者さんにおける、乳房内再発率を比較した研究10報告をまとめて統計的に解析した結果では、BRCA遺伝子の病的バリアント(変化)の有無によって、有意差は認められていません。手術後の経過観察期間が7年以上(中央値)である5つの研究に絞って解析すると、BRCA遺伝子の病的バリアントを持つ場合では同じ乳房の再発率が高いとの結果でした。
つまり、多くの場合は、最初の術後数年に関して言えば同時に両方の乳房を切除しなくてもその後の乳がんをまた経験する確率や再発率に差はないとも言えます。
しかし、ご自身も現在まさに感じておられるであろうどんなに早期で治癒率が高いといわれても、「乳がんで命を失うのではないか?」という不安は耐え難いものかと推察します。
このような状況がもう一度やってくる可能性が通常よりも高いのであれば、「今回治療のために乳房の手術をしなければならないのであれば、反対側を含めて乳がんになるリスクを最大限減らすことのできる乳房切除と対側乳房切除術を選択したい」と考える方もおられます。
ですが、その選択をするときにはリスク低減の一方で両側の手術を同時にすることで失うものや身体的な負担は確実にあります。
リスク低減手術もこの4月から乳がんを患っておられるHBOCの方では保険適応になり、これまで100万単位のお金を払わなければならなかった手術が、高額療養費を申請すればご自分の医療費上限を支払うだけで可能となったというメリットも判断を左右する要素となるでしょう。
私が診療させていただいている方の中には、「いずれはリスク低減手術も考えたいけれども、子どもがまだ小さいし、手術が2回か3回になっても一つずつ解決して段階を踏んで手術をしたい」と思われる方もいますし、
「これまでの化学療法や今からの手術のつらさを考えると、これをもう一度しなければならないリスクが人よりも高いとわかったのだから、今回の治療を機会にそのリスクを最大限減らしたい」と同時のリスク低減手術や乳房切除術の選択をされる方もおられます。
どうすることが正解なのかは、その方その方の価値観や置かれた状況によって異なりますし、お命に関わることなくうまく治療できる範囲であれば、たとえ二回目の乳がんを経験することになってもやり直しは効きますし、その選択は正解となります。
手術までの時間は限られているかのしれませんが、遺伝子検査の結果を知るところまでは進んでおられます。
お辛くても担当医やセカンドオピニオンを希望しても構いません。
ご自分が一番、治癒を目指すことが最優先で前向きに治療に取り組める選択を頑張ってなさってください。
文責:広島大学病院乳腺外科 恵美純子