リンパ節に微小転移あり オンコタイプDXの結果で抗がん剤治療をするかどうか?

2022年5月11日   

初めまして。37歳、女性 左乳がんに対して今年の3月全摘術を行いました。
病理結果が出まして、浸潤径1.8㎝、全体径6.5㎝ 、腋下リンパ節に微小転移1個あり、血管侵襲なし、リンパ管侵襲あり、核異型度2,組織学的異型度1
女性ホルモンレセプターER陽性、PR陽性
HER2陰性、Ki-67:20%

センチネルリンパ節生検では転移なしでしたが、詳細な病理検査で微小転移が一つあることがわかり、医師の間でも、抗がん剤治療を行うか、ホルモン療法単独で行うか、判断に迷うと言われました。
そのため、オンコタイプDXの検査をすることになりました。

オンコタイプDXの結果が低値だったとしても、リンパ節に微小転移があるということは、抗がん剤治療の再発効果が多少なりともあると考えられますか?

私としては子供もまだ小さく、たとえ1%でも再発の予防ができるのなら、どんな治療でもしたいという思いはあります。

よろしくお願い致します。

まだお子様も小さく、再発リスクを出来るだけ下げたいというお気持ちでおられるご様子、以下がご判断の参考になれば幸いです。

質問者様のオンコタイプDXの結果がまだ判明していないので、方針は再発スコアによって枝分かれするかと思います。また、センチネルリンパ節が微小転移の場合、化学療法の上乗せ効果についてエビデンスレベルの高いデータは現時点ではありません。そのため、以下A,Bの場合に分けた提示が限界となりますのでご了承ください。

■始めに結論から

  1. 腋窩リンパ節転移「なし」の条件に寄せて考えた場合

再発スコアが20以下であれば化学療法は不要、再発スコアが21以上であれば、化学療法推奨。

  1. 腋窩リンパ節転移「あり」の条件に寄せて考えた場合

再発スコア 25 以下の低めの値であっても化学療法の上乗せ効果があるため、どのような再発スコアでも化学療法推奨。

■根拠

  1. 腋窩リンパ節転移「なし」の条件に寄せて考えた場合

NSABP-B20(リンパ節転移陰性、または微小転移の患者さんが対象)という試験により、オンコタイプDX再発スコア 0-10(低リスク)では ホルモン療法推奨、再発スコア26以上(高リスク)では ホルモン+化学療法推奨となっています。そこで、再発スコア 11-25(中間リスク)は化学療法が必要なのか?を検討したTAILORx試験が行われました。

再発スコア 11-25の患者さんのうち、50 歳以下の閉経前の場合、9年後の無遠隔転移生存率(遠隔転移がなく生存している割合)の化学療法上乗せ効果と→ 推奨治療を示すと、以下のようになります。

再発スコア 11-15 では 化学療法上乗せ効果なし → ホルモン療法推奨

再発スコア 16-20 では 化学療法上乗せ1.6% → 臨床的リスク*で判断

再発スコア 21-25 では 化学療法上乗せ 6.5% → ホルモン+化学療法推奨

*50 歳以下の閉経前で再発スコアが16-20の場合、臨床的「低リスク」の条件:

  • 腫瘍の浸潤径3 cm以下かつ組織学的グレード1
  • 腫瘍の浸潤径2 cm以下かつ組織学的グレード2
  • 腫瘍の浸潤径1cm以下かつ組織学的グレード3

に当てはまる場合は、化学療法の上乗せ効果がないので、ホルモン療法推奨となります。上記以外は高リスクになり、ホルモン+化学療法推奨となります。

質問者様の場合、臨床的低リスクの条件に当てはまりますので、再発スコアが16-20であれば化学療法上乗せ効果はなく、臨床的低リスクで再発スコアが21-25であれば、化学療法の上乗せ効果が6.4% 期待できます。

ただ、閉経前の患者さんに化学療法の効果が期待できる理由として、化学療法の薬剤の効果というよりも、「閉経状態になること自体」が直接の原因である可能性も指摘されています。化学療法=抗がん剤治療を行うと、閉経前の人が閉経する確率が30代で30~40%ほどあります。

つまり、ゾラデックスやリュープリンのような卵巣機能抑制療法(閉経状態にする治療)を行えば化学療法を行った時と同じような効果が期待出来るのではないか?という推測もなされており、現在アメリカで臨床試験が計画されています(結果が出るのはまだまだ先です)。ですので、化学療法を行わない場合、ご年齢からしても卵巣機能抑制療法は必要となるでしょう。

 

  1. 腋窩リンパ節転移「あり」の条件に寄せて考えた場合

RxPonder試験(リンパ節転移1-3個の再発スコア25以下の患者さんが対象)という試験の結果、閉経前でリンパ節転移が1個のグループでは、5年後の無浸潤性疾患生存率(浸潤がんの局所再発や遠隔転移がなく生存している割合)が、ホルモン+化学療法群 94.2% vs ホルモン療法群89.4% と、化学療法上乗せで4.8%の効果あることがわかっています。

また、再発スコアで分けてみると、50 歳以下の閉経前女性では、ホルモン療法群と比較して、ホルモン+化学療法群の5年無浸潤性疾患生存率の絶対的な増加(化学療法の上乗せ効果)は、

再発スコア 10以下で 6.9 %、

再発スコア 11〜15で 2.3 %

再発スコア 16〜20で 7.1 %

再発スコア 21〜25で 10.0 %

でした。

このため、50 歳以下の1-3個のリンパ節転移がある閉経前女性では、どのような再発スコアでも化学療法が推奨されます。ただ、本試験の対象患者さんの条件が、試験の途中で「微小転移の場合は除く」、と改定されており、微小転移のグループは最終的には論文内で検証されていません。なので、質問者様の病理結果は厳密にはこの試験の対象には含まれませんが、リンパ節転移1個の場合として考えると上記のような効果となります。

 

どちらの条件に寄せて考えるかは、意見が分かれる所とは思いますが、1%でも再発リスクを下げたいと思ってらっしゃるのであれば、Bの条件で考えて化学療法を行うという選択肢もあるかと思います。化学療法にもさまざまな副作用がありますので、その内容も主治医の先生にお聞きになり、しっかりと納得し治療を決定されてください。再発なきことをお祈り申し上げます。

文責:呉共済病院乳腺外科 網岡 愛