術前化学療法後でこれから手術をします。リンパ節郭清の必要性がありますか?

2020年5月23日   

来週、左乳房全摘手術を控えていますが、手術方法について迷っています。(トリプルネガティブ乳がん)腫瘍が2つ引っ付いた状態で5㎝程度のため、微少転移根絶&腫瘍縮小を目指し術前化学療法(AC、パクリ)をしました。途中縮小が見られましたが、また大きくなったりと、結果として効果が、ほぼ見られませんでした。初診の脇リンパ節針生検では転移なし、術前CTでも転移なしでした。
・トリネガで再発転移しやすいタイプ
・術前抗がん剤が、あまり効果がなかった
・術後の病理検査結果で、悪性度が高いorリンパ節に転移があった場合、再手術でリンパ節郭清するのは、体の負担が大きいということで、腋窩リンパ節郭清を打診されています。お聞きしたいのは、
①術前抗がん剤をしていても、センチネル生検は有効なのか?
②リンパ節転移がなくても、腫瘍が5㎝程度あると、トリネガタイプは、郭清する方がいいのか?
③予防としてリンパ節郭清するのは、再発転移確率に優位なのか?
④センチネル生検をする際、より正確に転移有無を確認する方法はあるのか?
センチネル生検の精度は、どの程度か?
⑤CTで転移なしだが、脇&鎖骨下のリンパ節が痛むのは、微少転移があるからなのか?腫瘍によりリンパの流れが悪くなってるからか?担当医には、郭清すると回答していますが、数日考えてみて今は、「センチネル生検で、郭清基準の大きさ・個数に関係なく、1つでも転移があれば、リンパ節郭清をする」という方向にしたいと思っています。

術前化学療法前のCTとリンパ節細胞診で転移なしということですので、臨床的にリンパ節転移陰性と判断します。

①乳癌診療ガイドラインでは、臨床的リンパ節転移陰性乳癌に対して術前化学療法後のセンチネルリンパ節生検(以下センチネル)は「弱く推奨」するとなっています。現実的に「やってもよい」との判断です。

②今のところ、腫瘍サイズが大きいとか、トリプルネガティブ乳癌という条件でセンチネルの精度が下がるとのデータはありませんので、リンパ節郭清を行う理由にはならないと思います。

③(臨床的にリンパ節転移陰性の場合)腋窩郭清と、センチネル→転移があれば郭清 で再発率に差はないとされています。

④センチネルの技術的な質問でしょうか? 色素とアイソトープ併用法がやや精度が上とされていますが、いずれかの単独法も許容できるとされています。治療前後でリンパ節のサイズを比較することやPET-CTでリンパ節診断の精度を上げることはできますが、確定的なものではないと思います。

センチネルの精度には同定率(手術中にリンパ節を見つけられるか)と、偽陰性率(術中に転移陰性、後から陽性とわかる)があるのですが、臨床的リンパ節転移陰性乳癌・術前化学療法後のセンチネルで同定率は96%、偽陰性率6%で通常のセンチネルとほぼ同等とのことです。

⑤「痛み」は微小転移では起こりませんので、おそらく関係ないと思います。

腋窩リンパ節転移があるとリンパの流れが変わってしまうので、転移のないリンパ節のみがセンチネルリンパ節に見えることがあります。これに術前化学療法でもともとのリンパ節転移が小さくなると手術中に取るべきリンパ節がわかりにくくなるのです。担当の先生は①「術中センチネル陰性だったが術後に陽性と判明した」②「センチネルで陰性だったが、転移のあるリンパ節を取り残していた」の2パターンを危惧しておられると思います。腋窩郭清をすればこれらは回避できるのですが、リンパ浮腫や上肢の痛みといった後遺症リスクが上がります。

①の場合は追加郭清をすればいいと思います。確かに体に負担はかかりますが、可能性としては6%と低率です。

②の場合が深刻ですね。治療前のリンパ節転移の臨床診断が自信をもって陰性であれば、センチネルの精度は担保されるのでその結果を信じてよいと思います。

見ていただいてわかるように、センチネルの精度はもともと100%ではありません。100%の確信を得ようとすると郭清するしかないのですが、後遺症リスクとの兼ね合いで現在はセンチネルが標準術式です。数字だけで解決するものとは思いませんが、最大限の効果が得られて、最小限のダメージで済む、その妥協点を個別に見つけていただければと思います。アイソトープ法のセンチネルには準備がいるため、術式変更があれば早めに担当医にお伝えしておいた方が良いと思います。

 

文責:県立広島病院乳腺外科 野間翠