乳房全摘、リンパ節転移2個、リンパ郭清済の場合、放射線をする基準はありますか?

2021年10月14日   

自分で決めなければならなくて迷っています。
病理の結果 ステージ2A 腫瘍径1.2×0.7 ki値5%(術前16%)
ホルモン陽性 リンパ管侵襲あり、静脈侵襲無し リンパ節転移2個
閉経前43歳
アンスラ+タキサン治療中
この結果で、初めは放射線治療はしないという事でしたが、放射線治療しない理由を主治医に尋ねたところ、「リンパ節転移が4個以上では無いから。」という回答で、私の場合、やっても構わないという感じでした。
私の手術時の腫瘍の位置や状況では無く、ただ統計学上の問題みたいです。
そこで、気になっている事を洗い出してみました。

①乳腺にあるリンパ管の行き着く先は、腋下リンパ節だけでしょうか?鎖骨下などには行かないのですか?
(私の場合、リンパ管侵襲が散見しているそうです。術前に脇への転移は画像上無かったのに腋下リンパ節に転移していたので、腋下以外のリンパ節への転移が心配です。)

②腫瘍から胸壁、皮膚までの距離が十分かも気になります。(病理結果から、わからないのでしょうか)

①②は、主治医に聞いても明確な回答は無く、私の放射線治療をするか決め手となっているところが不明で、モヤモヤして決断できません。
普通は何を考慮して決められるのでしょうか?先生の御意見を伺いたく、質問致します。よろしくお願いします。

ご質問ありがとうございます。

乳房切除術後の放射線治療の適応については、乳癌診療ガイドラインでは以下のようになっております。

・腋窩リンパ節転移が4個以上の場合には放射線治療を行うことが標準である

・腋窩リンパ節転移が1~3個の場合には放射線治療が勧められる

これまでの報告では、腋窩リンパ節転移が1~3個の場合には、局所・領域再発率の低下や乳がん死亡率の低下は認められたものの全生存率(乳がん以外の死亡を含む全体の生存率)には、統計学的な有意差は認められておらず、全員に放射線治療を行うべきか、また、どのような場合には省略可能かはいまだに明らかとはなっていません。主治医の先生が統計学上の問題といわれたのはこの点を意味しておられるのだと思います。したがって、腋窩リンパ節転移が1~3個の場合の放射線治療の適応については、施設ごとに異なるのが現状と思います。

あくまでも当院での方針になりますが、当院では再発率や乳がん死亡率の低下が認められることから、乳房切除術後で腋窩リンパ節転移が1~3個の場合には原則、放射線治療を行うこととしております。

ご質問①でおっしゃられている通り、鎖骨上領域のリンパ節に転移をするリスクはあります。したがって、乳房切除術後に放射線治療を行う場合には、鎖骨上領域を含めて放射線治療を行うことが標準的です。

ご質問②の腫瘍と胸壁や皮膚の距離についてですが、断端陽性の場合には病理所見に記載されると思われますので、今回はきちんと切除できているのだと思います。したがって、腫瘍と胸壁や皮膚距離は今回の乳房切除術後の放射線治療の適応とはあまり関係がありません。

最終的には、放射線治療を受けることのメリットとデメリットを踏まえてご自身でご判断いただく必要がありますが、少しでもご参考になりましたら幸いです。

 

文責:広島大学病院放射線治療科 西淵いくの