全摘→再建をしましたが、皮膚側の断端が非常に近いとのことでした。もし断端陽性だったらホルモン療法は局所再発を防ぐ為に有効でしょうか?

2020年12月10日   

術前抗がん剤後、2020年7月に全摘手術(広背筋にて同時再建)しましたが、病理結果で、皮膚に近いところまで広がりがありました。主治医の説明は「プレパラートも確認したが、脂肪が挟まっており、外科的には陰性」と説明がありました。広背筋で再建している事もあり、放射線や追加切除は無しとなりましたが、心配でなりません。もしも万が一ガン細胞が皮膚近くに残っていた場合、タモキシフェンで消えることはありますか?
術前化学療法前:HER2陽性(+2) ホルモン陽性 グレード2 ki67 20~50 腫瘍4cm
化学療法後:HER2陰性 ホルモン陽性 グレード1 ki 10%以下 腫瘍2cm リンパ転移なし
念のため放射線や追加切除をした方が良かったのではないかと悩んでいますが、もしホルモン治療が局所にも有効であれば、過剰に心配することはないのではないかと考えています。お忙しいところ恐縮ですがよろしくお願いします。

全摘手術後に断端陽性であれば追加の切除あるいは放射線治療が必要になります。一方、全摘手術後に断端陰性であっても複数個(具体的には4個以上)の腋窩リンパ節転移がある場合には放射線治療が必要となります。その理由は乳房切除と腋窩リンパ節郭清を受けられた患者さんを解析した臨床研究において、腋窩リンパ節転移が4個以上あった場合には、放射線治療を行うことにより10年局所・領域リンパ節再発率が32.1%から13.0%に減少し、20年乳がん死は80.7%から70.7%に減少することが示されているからです 1) 。したがって日本やアメリカの診療ガイドラインではこのような患者さんには全摘後、断端陰性であっても放射線治療が標準治療として推奨されています 2) 。相談者様の場合は、病変が皮膚に近いということですが、がん病変と皮膚との間に脂肪組織が介在しているので断端は陰性であり、リンパ節転移もないようですので、追加切除や放射線治療は不要と考えます。また、手術前の抗がん剤治療後に残った病変はホルモン陽性、HER2陰性、低グレード、Ki低値というおとなしめの病変ですので、主治医の先生の意見と同じく、ホルモン療法が局所再発および遠隔再発の予防に有効と考えられます。
参考文献:
1) EBCTCG(Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group), McGale P, Taylor C,
Correa C, Cutter D, Duane F, et al. Effect of radiotherapy after mastectomy and axillary
surgery on 10―year recurrence and 20―year breast cancer mortality:meta―analysis
of individual patient data for 8135 women in 22 randomised trials. Lancet.
2014;383(9935):2127―35.
2) BQ5. 腋窩リンパ節転移4個以上の乳房全切除術後患者では,術後放射線療法
(PMRT)を行うべきか? 乳癌診療ガイドライン治療編 放射線療法 2018年版

 

文責:県立広島病院乳腺外科 尾崎慎治