化学療法で、再発した胸骨傍リンパ節転移は現在は消えていますが、今後どうしたらいいのでしょうか?

2020年8月22日  , 

私の家族なのですが、34歳で左外側に腫瘍で腋窩リンパ節転移あり、胸骨傍リンパ節に腫れありの状態でしたが、術前化学療法で腫れは消えたとのことで、
温存手術と腋窩リンパ節生検をしてホルモン剤、抗がん剤、放射線治療をしました。ですが、その約1年後に消えていたはずの胸骨傍リンパ節が転移していました。放射線はもうできないと言う事で、ホルモン剤と抗がん剤での治療をしていますが、消えたからもういいかもしれないとか、ほとんど消えたかな?とか、曖昧な状態で、結局いつまで続けるのかわかりません。
あまり副作用が出ないので、元気なうちは続けていくようなのですが、以前のように何ヶ月で終わりとは言われず、不安です。全身への微小転移を考えると、体がもつなら、できるだけ続けるということでいいのでしょうか?
また、若年性で、再発も術後1年と短く、胸骨傍リンパ節転移は予後が良くないとききました。いろいろ調べてみても症例があまりなく、今後の予後について、完治があり得るのか、それとも可能性が低いのか、個人差はあると思いますが、今後考えられる予後について教えて頂けないでしょうか

しっかりと治療をおこなった後、再発するとご心配でしょう。

正解がない質問ですが、一緒に考えていきましょう。

まず、最初に診断を受けたときの状態は、腋窩リンパ節、胸骨傍リンパ節への転移あり、遠隔転移なしということですので、ステージ3になります。

最初の治療は、多くの施設で、術前化学療法をおこない、局所治療として、乳腺への手術(乳房温存または乳腺全摘)+リンパ節への手術(腋窩リンパ節郭清または生検)→温存乳房への放射線照射+領域リンパ節への放射線照射をおこない、その後全身治療としてホルモン療法(ホルモン感受性があれば)をおこなうということで一致すると思います。

ここで、疑問に思われるかたが多いと思いますが、腋窩リンパ節には生検や郭清をするのに、胸骨傍リンパ節には、転移があったのに同じ事をしないのか?ということです。これは、ガイドラインにも記載されていますが、それをおこなうことで、治療法の変更がある可能性が少ないことと、それをおこなうことでメリットが得られるというデータが少ないからです。

もしかすると、質問者の場合、検査上消えたようにみえて、胸骨傍リンパ節を取ってみると転移は残っていたかも知れません。しかし、その後の治療法に変わりはなかったでしょう。

次に、再発についてです。

まずは、再発の分類をしましょう。

再発は①局所再発、②遠隔再発、に大きく分けられます。なぜ分類するかというと、このふたつは、再発した経緯が違うので、治療法が大きく異なります。

局所再発は、温存した乳房や、皮膚、手術した側の腋窩リンパ節、鎖骨上下リンパ節、胸骨傍リンパ節などの、もとあった乳がんの近くに再発したものです。全身には、がんが広まっていない可能性があるため、局所の治療(手術や放射線治療)をきちんとおこない、加えて必要であれば全身治療(薬物療法)をおこなえば、完全治癒も目指せます。

質問者の最初の再発は、①の局所再発(詳しくもっと分類すると局所再発の中の領域再発)です。

一方、遠隔再発は、もとあった乳がんからは遠く離れたところに再発したもので、今わかっている再発したところ以外にも、画像検査ではわからない小さながん細胞(微小転移)が

全身に潜んでいると考えられます。今わかっているがんだけを局所療法(手術や放射線治療)しても、その他の潜んでいるがんはやっつけられません。そのため、治療は全身治療(薬物療法)中心となります。

では、実際にはどうするか?ですが、同じ局所再発(領域再発)でも腋窩リンパ節、鎖骨上リンパ節に対してはデータが多く、ガイドラインでの記載があります。腋窩は手術を勧められ、鎖骨上は手術を勧められていません。胸骨傍リンパ節再発に対しての記載はありませんので、文献を探すと、遠隔転移がなければ手術(術式は胸壁合併切除をおこないリンパ節切除)施行し、予後は良好となるという、症例数が少ないなかでの報告はあります。但し、どの報告も、その後、薬物療法は続けています。

質問者の場合は、すでに局所治療としての放射線照射はおこなっていますので、局所制御のために手術をおこなうかどうかは選択肢があると思います。メリット(微小転移がなければ、局所治療で完治)・デメリット(①微小転移があれば、手術の有効性は少ない、②手術の合併症や後遺症)を良く考慮のうえでの判断になると思いますが、非常にお若いので積極的に考え、完治させたいですね。

主治医の先生だけでなく、セカンドオピニオンも利用されると良いと思います。

早期の再発で、不安になられると思います。受けておられる治療法は、過去の治療も現在・の治療も一般的です。ただ、今後の治療については選択肢もあると思います。今後も治療が長く続きますが、主治医の先生と良く相談されて、納得して治療を選択・継続されてください。

 

文責:香川乳腺クリニック 香川直樹