放射線治療が必要でしょうか?

2022年5月9日   

2月半ばに右胸の全摘手術を受けました。センチネルリンパ節生検でリンパ節転移が認められたため、腋窩郭清を行いました。(オンコタイプDXの結果、化学療法については行わないこととし、アリミデックスを服用しています。)

放射線について、病理組織診断報告書には、リンパ節転移Total(3/17)レベルⅠ(0/13)、レベルⅡ(0/1)、本体内(乳腺内)リンパ節(2/2)とありました。(本体内のリンパ節2個に転移が認められ、n(2/16)断端は陰性とあります。)レベルⅠ、レベルⅡに転移がないにもかかわらず、放射線治療は必要でしょうか。

(病理結果)浸潤17×10×12mm  PT1CN1MO(リンパ節転移3個)ステージⅡA ER(8.9陽性)、PgR(5.9陽性)、HER2(8.8陰性)核異型3、分裂2、脈管侵襲Ly0v0 Ki67(10〜20%)

 

腋窩リンパ節転移4個以上陽性の患者さんへの乳房全切除後の放射線療法(PMRT)は局所再発(乳房およびリンパ節の再発)の予防効果,生存率の向上が示されており,全ての患者さんが受けるべき標準治療となっています.

一方,1~3個陽性の患者さんへのPMRTの有効性については,いまだ議論の余地があります.乳房全切除および腋窩リンパ節郭清後にPMRTを受けた患者さんと受けなかった患者さんの予後を比較した22の臨床試験をまとめた解析(EBCTCGのメタアナリシス)では,10年間での局所再発率は3.8%と20.3%,全再発率(局所再発および遠隔転移での再発率)は34.2%と45.7%,20年間での乳癌死亡率は42.3%と50.2%であり,PMRTの有用性が示されました1).したがって2018年版までの乳がん診療ガイドラインでも推奨される治療として記載されています.しかし,これらの臨床試験は,アロマターゼ阻害薬,タキサン系抗がん剤,抗HER2療法が術後の薬物療法として標準的に行われる前に開始された試験であることを知っておく必要があります.現在の標準的な薬物療法により遠隔転移での再発率に関しては,放射線療法の相対的な意義が低下している可能性も報告されつつあり,1~3個陽性であったすべての患者さんが受けるべきかどうかに関しては,今後の研究結果が待たれています.

有害事象については, PMRTを受けた患者さんと受けなかった患者さんとを比較した臨床研究の評価で患側上肢のリンパ浮腫の発症リスク(術後2年目まで)は23.9%と18.3%であり,リンパ浮腫発症リスク増加の可能性に留意すべきです2).また,二次がんの発生率のわずかな上昇(0.42%から0.50%),皮膚障害(皮膚炎,皮膚線維化,色素沈着など)の発症(13.6%),肺障害(放射線肺臓炎,肺線維症)の発症(それぞれ0.7%,5.7%)の可能性もあるため,認識しておく必要があります.

したがって腋窩リンパ節転移1~3個陽性の患者さんへPMRTについては患者さん自身が治療の益と害(有効性と有害事象)を理解した上で受けて頂くべきと考えます.

国外のガイドライン(ASCO/ASTRO/SSOのガイドライン)では,腋窩リンパ節転移1~3個陽性の患者さんへPMRTを推奨している一方で,局所再発のリスクが低い因子としてcT1(2cm以下の浸潤がん),脈管侵襲なし,リンパ節転移1個,リンパ節転移サイズが小さい,術前薬物療法の効果が高い,低グレード,ホルモン感受性が強い,高齢が挙げられており,PMRTを省略できる患者さんが存在する可能性があります3).

(参考文献)

  • EBCTCG, McGale P, Taylor C, Correa C, Cutter D, Duane F, et al. Effect of radiotherapy after mastectomy and axillary surgery on 10-year recurrence and 20-year breast cancer mortality: meta-analysis of individual patient data for 8135 women in 22 randomised trials. Lancet. 2014; 383 (9935) :2127-35.
  • Warren LE, Miller CL, Horick N, Skolny MN, Jammallo LS, Sadek BT, et al. The impact of radiation therapy on the risk of lymphedema after treatment for breast cancer: a prospective cohort study. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2014; 88 (3) :565-71.
  • Recht A, Comen EA, Fine RE, Fleming GF, Hardenbergh PH, Ho AY, et al. Postmastectomy Radiotherapy: An American Society of Clinical Oncology, American Society for Radiation Oncology, and Society of Surgical Oncology Focused Guideline Update. Pract Radiat Oncol. 2016; 6 (6) :e219-e34.