コロナのため放射線治療開始を延期しようと言われました。どれくらいの延期なら大丈夫なのでしょうか?
3月中旬に乳房温存手術を受けました。温存ですので、放射線治療が必要との事で先週から開始する予定で
主治医は、お穏やかで優しい先生なのですが、こちらから質問しな
非浸潤乳管がんとの事でした。ホルモン療法はしていま
ご質問ありがとうございます。がん治療を受けておられる中で新型コロナウイルス感染症という世界的な非常事態が生じ、また、通院中の病院でコロナウイルス感染者が出たとのことで、様々な不安を抱えておられるものとお察しいたします。
新型コロナウイルス感染症流行下での放射線治療については、すでに感染が拡大しているイタリアやアメリカなどから指針が出されております。その指針では、“予後良好な疾患で延期可能な放射線治療は開始を延期すること”、“患者の放射線治療施設への通院回数を減らすこと”が推奨されています。したがって、コロナウイルス感染症の流行の程度と放射線治療の必要性、緊急性を踏まえて考えていく必要があります。
今回のような早期乳癌、とくに非浸潤性乳管癌は予後良好な疾患に当てはまります。リンパ節転移のない早期乳癌では、放射線治療の開始時期と再発リスクには相関がないとの報告もあります。その他にも乳房手術後の放射線療法の開始時期に関する報告はいくつかあり、それらの結果を踏まえ、現在の乳癌診療ガイドラインでは、“化学療法を施行しない場合には、術後20週以内に開始することが望ましい”とされています。今回は非浸潤性乳管癌であり、術後20週以内に放射線治療が開始できれば(手術が3月中旬とのことですので、8月頃でしょうか)問題ないのではないかと思います。
また、コロナウイルス感染が拡大している中で、25回も電車で通院することを不安に感じられることは当然のことと思います。乳房温存術後の放射線治療には寡分割照射という方法(1回の照射線量を増やし、治療の回数を減らすという方法)があります。通常分割照射の治療回数が25回であるのに対し、寡分割照射では16回の治療で済むため、通院回数を減らすことができます。海外では以前からこの寡分割照射が行われており、治療効果も副作用も通常分割照射と変わらないことが明らかにされています。日本での臨床試験も終了し、日本人においても同様の結果が報告され、寡分割照射を取りいれる施設は増えています。現在のコロナウイルス感染症の状況も踏まえると、寡分割照射は十分に検討されうる治療法と考えますので、放射線治療科の先生とよくご相談していただくのが良いのではないかと思います。
長くなりましたが、少しでも安心、安全に放射線治療を受けていただくための一助になりましたら幸いです。
文責:広島大学病院放射線治療科 西淵いくの