HER2陽性の多発リンパ節転移の治療について教えてください

2021年1月11日  , 

現在42歳です。2019年6月右全摘、腋窩リンパ節郭清(19の内3転移)ER陽性PR陰性HER2陽性です。

治療歴は、エピルビシン、マイトマイシン、ハーセプチン+パージェタ+ドセタキセル、タモキシフェン、リュープリンです。

2020年12月初めて受けたPETCTにて多発リンパ節転移が見つかりました。右鎖骨上窩、右腋窩、胸筋間、胸骨傍、縦隔です。手術は取りきれないためしないとの事で、カドサイラ年末に始まりました。5ヶ月程カドサイラしてPETしてまだあるようであれば?サイバーナイフとの話でした

1、今回の5カ所については全てサイバーナイフできる場所なのでしょうか?(その他の手段または手術で取ってしまった方がより良い場所があれば知りたいです)

2、エンハーツが使えるようであれば使った方がよいでしょうか?(現在のクリニックでは呼吸器の先生がいないので、扱えないと薬剤師さんに聞きました、転院も視野に入れなくてはいけないかと考えています)

夏までハーセプチンパージェタしていたのに転移が分かり大変混乱と焦りを感じております。どうそよろしくお願い致します

 

 

 

 

 

 

 

 

現在の相談者様の状態と担当医の先生が提示されている治療方針についてお答えします。

相談者様はLuminal-HER2タイプの乳がん術後で再発予防の治療終了後6か月以内に多発リンパ節転移で再発を来した状態と考えられます。多発リンパ節転移は領域リンパ節(腋窩、鎖骨上、胸骨傍(内胸)リンパ節)、遠隔リンパ節(縦隔リンパ節)に生じています。遠隔リンパ節転移は他臓器への転移(内臓転移、骨転移、皮膚転移など)と同様に扱われるため、手術での治療は困難であり、治療は薬物療法での病変のコントロールが中心になります。ハーセプチン、パージェタ、ドセタキセル治療終了から6か月以内での再発であり、薬物療法はカドサイラが推奨されます1)。カドサイラでの治療により病変が完全に制御出来た場合には副作用を考慮し、抗癌剤を抜いたハーセプチン、パージェタでの治療で病状のコントロールが可能になる場合もあります。担当医の先生が言われているようなサイバーナイフなどの放射線治療は薬物療法が無効である転移巣への局所治療として有効な可能性があります。サイバーナイフは精度の高いピンポイント照射(定位照射)が可能であり、周囲組織への影響が少ないのでリンパ節転移巣が複数個であっても治療可能と考えられます。

エンハーツに関してはカドサイラでの治療が無効になった場合に適応になります。エンハーツはカドサイラを含む複数の抗HER2剤(ハーセプチン、パージェタ)・抗癌剤治療(治療数中央値は6治療)で病変のコントロールが無効になった患者さんを対象にした臨床試験で奏効率(治療が効いてがんが30%以上縮小した患者さんの割合)が60.9%、無増悪生存期間(薬を投与してから、がんが大きくなるまでの期間)の中央値が16.4ヶ月、治療開始から1年経過した段階で生存されている患者さんの割合が86.2%と良好な治療成績が報告されています2)

 

【参考文献】

1)乳癌診療ガイドライン2018年版 薬物療法CQ22.HER2陽性転移・再発乳癌に対する一次治療で推奨される治療は何か?

2)N Engl J Med. 2020 Feb 13;382(7):610-621(国際共同第Ⅱ相試験のDESTINY-Breast01試験)

 

文責:県立広島病院乳腺外科 尾崎慎治