HER2陽性乳がんですが、術前化学療法中に腫瘍が大きくなってきた気がします。手術を先にするのとどちらがいいのでしょうか?

2020年8月26日  , 

ホルモン陰性、HER2陽性、ki67値50%、左胸乳頭付近にに2.2センチの乳がんがあります。遠隔転移、リンパ節への明らかな転移もなしと言われています。
術前にEC療法4クール、ハーセプチン4クール、全摘後術後に8or14クール化学療法をする予定です。
現在術前EC療法の4クールを終え、次回ハーセプチン開始前にエコーとMRIで癌が小さくなっているか評価すると言われています。
しかし、EC3クール目あたりから自覚症状として、癌のある側の脇が痛み、ふれるとこれまでなかったしこりのようなものを感じるようになりました。これは転移なのでしょうか。
主治医に相談したところ、まれに抗がん剤が効かず、転移したら大きくなったりする人もいる、しかしそれはやってみなくてはわからないから心配だろうけど化学療法を続けるしかないとの事でした。
なぜ効くか効かないかもわからない術前の化学療法を行わなくてはいけないのでしょうか?
気持ちとしては、全摘後、術後に微小転移の可能性もふまえて化学療法をしてくれたらいい、明らかな転移がないうちに早く悪いものを切って欲しいと感じます。
なお病歴として、15年前にトリプルネガティブ乳がんにて右胸全摘済みです。

 

 

ご質問ありがとうございます。

左乳房中央部の2.2cmで腋窩リンパ節転移がないホルモン陰性HER2陽性乳癌(ステージⅡA)で、術前化学療法としてEC療法4クール→ハーセプチン+タキサン系抗がん剤4クールを行った後、左乳房全摘術を行い、術後にハーセプチン14クール(計1年投与)を行う予定だと思います。ホルモン陰性HER2陽性乳癌(ステージⅡA)のため、周術期に化学療法+抗HER2療法を行うのが標準治療になります。その際、化学療法+抗HER2療法を術前に行っても、術後に行っても、予後に差は認めないと報告されています。

術前化学療法のメリットは、

①    腫瘍を小さくすることで、乳房部分切除術が可能になる場合があります。

②    腫瘍が小さくなるか大きくなるかで、化学療法の効果がわかります。腫瘍が小さくなっていけば、化学療法の効果を実感しながら治療を継続することができます。

③    ホルモン陰性HER2陽性乳癌では、化学療法後に切除した組織内で腫瘍が完全に消失していれば(病理学的完全奏効(pCRといいます))、予後は良好であると報告されています。pCR率は40%程度あり、pCRも期待できます。

④    pCRにならなかった場合、術後のハーセプチンに代えて、カドサイラを投与すると予後が改善するというKATHERINE試験の結果から、つい最近、カドサイラに変更して治療することができるようになりました。(カドサイラはハーセプチンに化学療法が付いた抗体薬物複合体です。)

質問者様の場合、手術は乳房全摘の予定とのことですので、①は当てはまりませんが、②化学療法の効果がわかること、③pCRであれば良好な予後が期待できること、④pCRにならなかった場合の救済策があることはかなりのメリットだと思います。術後化学療法の場合、治療効果を実感として感じることができないため、効くか効かないかわからないまま、きっと効くと強く思いながら、化学療法を続けることになります。そして結果的に数年たって再発がなければ化学療法の効果があったと、再発すれば効果がなかったとわかることになります。

ちなみに、術前化学療法のデメリットは、

①    治療効果がなく腫瘍が大きくなれば、急遽薬剤を変更するか、手術に切り替える必要がでてくる。

②    治療効果がなく全身転移したら、手術不能になる。

③    手術は術前化学療法後なので、6か月後になってしまう。

などです。これらのうち①②は悪性度の高い乳癌の場合であり、治療効果がなく、予後不良です。たとえ手術を先に行い、術後に化学療法を行ったとしても、再発する可能性が高く、予後不良です。これらのことから、ホルモン陰性HER2陽性乳癌では、術前化学療法のメリットは十分にあると思います。

ただし、質問者様のご希望もあるでしょうから、主治医の先生とよく相談して、納得のいく治療を受けてください。尚、EC療法終了後で腋窩リンパ節転移が出現しているかどうかは、エコー等で確認できると思います。転移であれば、EC療法は効かなかったということになります。こちらも主治医の先生にエコー等で確認してもらってください。

 

文責:尾道総合病院乳腺外科 吉山知幸