HER2陽性乳がんで微小転移が1個ありました。手術から時間が経っていますが、放射線治療をした方が良かったのではないかと悩んでいます

2022年1月24日   

50歳、HER2陽性StageⅡA 2020年9月に左乳房の全摘手術をしました。ER0、PgR0、HER2は3+浸潤径12×7mm
lyマイナス、vマイナス、断端マイナス、核グレード3、Ki67 30%
リンパ節は3つ切除し、センチネルリンパに2mm程度の転移が1つありました。
手術前のリンパ節の画像では、3つ見えていて、そのうち2つは見え方ががんではないと言われ、1つはグレーな感じと言われ、針生検へ。その時の結果は陰性でした。しかし、画像では怪しいので、リンパ節郭清はすると言っていたのですが、結局のところ、術中にセンチネルリンパ生検で、3つとって、1つががんだったという状況です。

術後はECを4回、 PER+HER+DOCを4回、PER+HERの分子標的薬のみを14回。
最初の治療計画で、放射線治療は無しということだったのですが、抗がん剤、分子標的薬と治療が終わり、無治療となり、リンパ節転移が1つでも、放射線治療もおこなった方がよかったのではないかと、心配を募らせております。

本当に放射線治療はしなくても大丈夫なのでしょうか?
このまま、無治療で、3ヶ月から6ヶ月の胸のエコーなどのフォローで大丈夫でしょうか?
もし必要なら、今からでも間に合うのでしょうか?
(手術からだいぶ時間があいての放射線治療でも大丈夫ですか?)
もし放射線治療をおこなうのであれば、
照射する範囲や回数などはどのようなものなのでしょうか。

HER2陽性なので、抗がん剤、分子標的薬の治療か終わると、その後はホルモン剤の服用もなく無治療になるので、少しでも不安をなくしたく、質問させていただきました。
よろしくお願いします。

ご質問ありがとうございます。

乳房切除術後の放射線治療の適応については、乳癌診療ガイドラインでは以下のようになっております。

・腋窩リンパ節転移が4個以上の場合には放射線治療を行うことが標準である

・腋窩リンパ節転移が1~3個の場合には放射線治療が勧められる

これまでの報告では、腋窩リンパ節転移が1~3個の場合には、局所・領域再発率の低下や乳がん死亡率の低下は認められたものの全生存率(乳がん以外の死亡を含む全体の生存率)には統計学的な有意差は認められておらず、全員に放射線治療を行うべきかどうかはいまだ結論がでておりません。したがって、放射線治療の適応は、再発リスク、放射線治療によるメリットデメリット(再発抑制効果と有害事象)を踏まえて、各施設で症例毎に判断されているのが現状です。

今回は、リンパ節転移が微小転移(2mm以内のリンパ節転移は微小転移と呼ばれます)であること、lyマイナス、vマイナスであること、HER2陽性で全身療法の効果が期待できることなどから再発リスクは低いと判断し、放射線治療は行わないと言う方針を選択されたのではないかと推察いたします。放射線治療を行わないことに不安があるようであれば、放射線治療を行わない理由について、主治医の先生に今一度確認されてはいかがでしょうか。

乳房手術後の放射線治療のタイミングについては、適切な術後化学療法を行った場合、6か月程度の放射線治療の開始の遅れは局所制御に影響しないと考えられており、術後化学療法が必要な場合には、まずは化学療法を行い、その後に放射線治療を行うことが標準的です。したがって、今回のような場合であれば、放射線治療を行うとすれば化学療法(PER+HER+DOC)終了後に行うこととなります。放射線治療の開始が遅れた場合には局所制御率の低下が懸念されますが、今回は浸潤径12×7mmと腫瘍サイズは小さく断端陰性であり、放射線治療を行わない場合でも局所再発のリスクは低いと思われること、また、化学療法後に無治療であった訳ではなくPER+HERが施行されていることからその影響は比較的少ないのではないかと思われます。ただし、データが存在するわけではないためどの程度の影響があるかについて正確に言及することは難しく、その点についてはご理解いただければと思います。

なお、乳房切除術後に放射線治療を行う場合には、胸壁および鎖骨上リンパ節領域に45~50.4 Gy/25~28回の放射線治療を行うことが標準的です。

文責:広島大学病院放射線治療科 西淵いくの