第170回まちなかリボンサロンでは、「肩の運動とリンパ浮腫予防」をテーマに、広島大学病院 作業療法士の金山亜希先生から、乳がん術後の身体機能の維持と、リンパ浮腫と上手に付き合うための具体的な知識を学びました。手術や治療を経て、次のステップへと進む中で、「いつから、どの程度動かしてよいのか」「腫れを防ぐにはどうすればいいのか」という不安は、多くの参加者が共有する切実な悩みです。講演では、それらの不安を解消し、QOL(生活の質)を高めるためのヒントが体系的に示されました。
1. なぜ「肩の運動」が必要なのか
術後は手術の影響や痛み、皮膚の突っ張り感から、どうしても腕を動かすことを控えがちになります。しかし、過度な安静を続けてしまうと、関節の周囲が硬くなり、いわゆる「凍結肩」の状態を招く恐れがあります。一度関節が固まると、回復までに長い時間を要し、洗髪や着替えといった日常動作に大きな支障をきたします。

金山先生は、運動の目的は単に腕を上げることではなく、日常生活に困らない可動域を確保することにあると強調されました。医師の許可を得た上で、痛みと相談しながら「少しずつ、継続的に」動かすことが、機能回復への近道となります。
2. リンパ浮腫を正しく理解する
リンパ浮腫は、手術によるリンパ節の郭清や放射線治療の影響で、リンパ液の流れが滞り、皮下組織に水分やタンパク質が溜まって腕が腫れる状態を指します。重要なのは、これが「一生続くリスク」であるという点です。術直後だけでなく、数年、あるいは数十年経ってから発症することもあります。

講演では、早期発見のためのサインとして、以下のポイントが挙げられました。
- 腕全体の重だるさや、皮膚の突っ張り感。
- 手の甲の血管や関節のシワが見えにくくなった。
- 指輪や時計、衣服の袖が以前よりきつく感じる。
- 左右の腕を比べたとき、明らかに太さに差がある。
これらのサインにいち早く気づき、適切な対応を始めることが、重症化を防ぐための最優先事項となります。

3. 日常生活で守りたい「三つの柱」
リンパ浮腫の予防には、日常生活での「負担の軽減」が不可欠です。講演では具体的に三つの視点が示されました。
①スキンケア(感染予防と保湿)
リンパ液の流れが悪い部位は細菌への抵抗力が弱まっています。小さな傷から炎症(蜂窩織炎)を起こすと、浮腫を一気に悪化させます。徹底した保湿で肌のバリア機能を保ち、虫刺されや深爪、庭仕事での怪我に注意することが不可欠です。
②体重管理(肥満予防・改善)
肥満はリンパ浮腫の発症や増悪の大きなリスク要因です。過剰な脂肪組織はリンパ管を圧迫し、リンパ液の産生を増やす一方で、排泄を妨げます。適切なBMIを維持することは、リンパ系の負担を軽減し、浮腫のコントロールを容易にするための極めて重要な土台となります。
③運動療養(循環の促進)
「動かさない」のではなく、「適切に動かす」ことが推奨されます。筋肉を動かすことで生じるポンプ作用は、リンパ液の流れを促進する強力な助けとなります。激しすぎる運動や重い荷物の運搬など、過度な負荷には注意が必要ですが、専門家の指導の下で適度な運動を継続することが、滞ったリンパ液の回収を促します。
4. 専門家と共に歩むセルフケア
リンパ浮腫のケアは、患者さん自身が行う「セルフケア」と、専門職による「複合的治療」の両輪で成り立ちます。医療機関で行われる複合的治療には、スキンケア指導、医療用リンパドレナージ、圧迫療法(弾性着衣の使用)、そして圧迫下での運動療法が含まれます。
自分で行うセルフマッサージ(ドレナージ)の際は、強い圧は禁物です。「優しく、ゆっくり、皮膚をずらすように」行うのが鉄則です。
リハビリテーションは一人で抱え込むものではありません。作業療法士などの専門職と相談しながら、自分の生活に無理なく取り入れられる「自分に合う形」を見つけていきましょう。

「自分の体の変化に敏感になり、労わってあげること」。金山先生の温かな視点に基づくアドバイスは、健やかな日常を取り戻すための確かな道標となりました。
次回、令和8年4月11日(土)の第171回まちなかリボンサロンは、miyu’s歯科小児歯科 薬剤師 伊木 友香 先生に、「お口から始めるやさしいインナーケア」をテーマにご講演いただく予定としております。
次回もZoom配信開催となります。ご期待ください。
