まちなかリボンサロン
ハイブリット形式で開催していましたが、現在はオンラインのみで行っています。

2026年6月6日(土)第173回まちなかリボンサロン(WEB形式)開催の報告

第173回まちなかリボンサロンでは、「最新の乳がんの手術〜術式はどうやって決められるのか?」をテーマに、島根大学医学部附属病院 乳腺外科の角舎学行先生から、手術の決め方と最新の選択肢についてお話しいただきました。令和7年5月に同大学乳腺外科の初代教授に就任された先生で、島根での家庭菜園のエピソードも交えながら和やかにお話が始まりました。

 

術式を決める際、医師がまず確認するのは乳がんの「サブタイプ」です。ホルモン受容体とHER2(ハーツ)の組み合わせによって、ルミナル型・HER2陽性・トリプルネガティブの三つに大別されます。HER2陽性とトリプルネガティブの乳がんは、まず術前薬物療法(手術前の薬物治療)を先に行うのが基本です。HER2陽性では半数以上でがんが完全に消失し(病理学的完全奏効)、治療効果に応じてその後の治療を調整できる点でも先に薬物療法を行う方が有益とされます。一方、患者さんの過半数を占めるルミナル型は、多くの場合まず手術を行います。

  

部分切除(乳房を残す手術)が可能かどうかは、腫瘍の大きさ(おおむね3センチが目安)と位置によって判断します。近年は乳房再建が一般化したことで術式の考え方も変わり、大きく切る必要がある場合は全摘+再建の方が確実で美容的にも優れるとされます。

 

部分切除の選択肢としては通常の切開のほか、脇の下や乳輪から小さく切開して内視鏡で行う「内視鏡補助手術」、針を刺してラジオ波でがんを焼灼する「ラジオ波焼灼療法(RFA)」も紹介されました。後者は腫瘍径1.5センチ以下の早期がんが適応で、乳房に傷や変形がほとんど残らない「切らない手術」です。

  

全摘の場合は乳頭乳輪を残すかどうかを判断したうえで、シリコン製インプラントまたは自家組織(主にお腹の脂肪)による乳房再建を検討します。インプラントは胸以外に傷が残らない反面、動かないという特徴があり、自家組織再建は自然な動きが得られる一方でお腹に傷が残ります。それぞれのメリット・デメリットを踏まえ、患者さんの体型や希望に合わせて選択することが大切と説明されました。

 

今後の方向性として、術前化学療法後にがんが消失した場合に手術をせず放射線のみで経過を見る全国共同臨床試験「アマテラス試験」が進行中であること、傷が目立ちにくいロボット手術(ダビンチシステム)が普及を目指して動き出していることも紹介されました。乳がんの手術はこれからさらに選択肢が広がっていく分野です。

最後に先生が強調されたのは、「手術の技術レベルは病院ではなく術者によって大きく異なる」という点です。内視鏡手術やラジオ波焼灼療法を提供できるかどうかも医師次第であり、術式に迷ったときはセカンドオピニオン・サードオピニオンをためらわずに活用してほしいというメッセージで締めくくられました。

次回、令和8年7月4日(土)14時からの第174回まちなかリボンサロンは、東広島医療センター 乳腺・内分泌外科 鷹屋 桃子 先生に「診察室では聞けなかった乳がん治療のなぜ?〜術前術後の不安との付き合い方〜」をテーマにご講演いただく予定です。
次回はZoom配信のみでのお届けになる予定です。ぜひご参加ください。

2026年5月9日(土)第172回まちなかリボンサロン(WEB形式)開催の報告

第172回まちなかリボンサロンでは、「さいきんの薬物療法のハナシ」をテーマに、広島大学病院 乳腺外科の笹田伸介先生から、加速度的に進化を続ける乳がん治療の最前線について学びました。乳がんは一人ひとりの性質に合わせた「個別化治療」が極めて進んでいる分野であり、最新の知見を正しく知ることが、納得のいく治療選択への確かな一歩になる――まずその力強いメッセージが、講演の柱として示されました。

 

乳がん治療を組み立てる上で欠かせないのが「サブタイプ(性質による分類)」の特定です。ホルモン受容体やHER2(ハーツー)タンパクの有無、そして増殖のスピードを示す指標などをパズルのように組み合わせ、その方に最も適した薬剤を選択していくプロセスが、最新の知見を交えて丁寧に解説されました。

近年の治療における劇的な変化として、以下の3つの重要なトピックが整理されました。

  

ルミナールタイプ(ホルモン受容体陽性)の進化: 従来のホルモン療法に加え、「CDK4/6阻害薬(アベマシクリブなど)」という分子標的薬を併用することで、再発リスクの高い方や転移のある方の治療成績が飛躍的に向上しています。 これにより、再発を防ぐための「上乗せ」の選択肢が大きく広がっていることが紹介されました。

HER2陽性タイプへの画期的な新薬: がん細胞を狙い撃ちする「抗体」に「抗がん薬」を直接くっつけた「ADC(抗体薬物複合体)」という新世代の薬(エンハーツなど)が登場しました。 標的細胞だけでなく周囲のがん細胞にも効果を及ぼす(バイスタンダー効果)など、これまでの常識を塗り替えるような高い効果を発揮している現状が詳しく語られました。

  
トリプルネガティブ乳がんへの新たな光: 有効な薬剤が限られていたこのタイプに対しても、免疫の力を借りてがんを攻撃する「免疫チェックポイント阻害薬(キイトルーダなど)」が術前・術後の補助療法として標準化されました。 これにより、手術前にがんが完全に消失する割合(病理学的完全奏効)が有意に高まっていることが示されました。

 

また、講演の締めくくりには、昨今の「AI(人工知能)」の進化についても触れられました。 画像診断や病理診断においてAIが人間を凌駕する可能性が示唆されていますが、治療方針の決定において最も大切な「対話」や「患者さんの価値観への寄り添い」は、AIには代替できない人間ならではの領域です。 科学的なデータやAIの予測を賢い「道具」として使いこなしつつ、最終的には医療者との血の通ったコミュニケーションを通じて、自分らしい道を選んでいくことの重要性が語られました。

  

笹田先生は「新しい薬が増え、選択肢が広がることは大きな希望ですが、同時に治療の組み立ては非常に複雑になっています。決して一人で抱え込まず、医療者と対話をしながら自身にとって最善の道を歩んでいきましょう」と締めくくられました。

次回、第173回まちなかリボンサロンは、本サロンの創設者である島根大学医学部附属病院の角舎学行先生をお招きし、「最新の乳がんの手術〜術式はどうやって決められるのか?」をテーマにご講演いただく予定です。 次回は、オンラインと現地開催(TKP広島本通駅前カンファレンスセンター)でのハイブリッド形式での開催となります。皆様のご参加を心よりお待ちしております

2026年4月11日(土)第171回まちなかリボンサロン(WEB形式)開催の報告

第171回まちなかリボンサロンでは、「お口からはじめるやさしいインナーケア」をテーマに、miyu’s歯科小児歯科の薬剤師・口腔栄養指導士であり、薬膳カフェ店長も務められる伊木友香先生から、お口の健康を全身の健やかさに繋げるための考え方とセルフケアについて学びました 。

  

お口は単なる食事の道具ではなく「からだの入り口」であり、食べる力は日々を生きる力そのものである――まずその視点が大切な土台として示されました 。 講演では、口の乾き、むせ、滑舌の悪化、食べこぼしといった些細なサインが、お口の機能が衰え始める「オーラルフレイル」のはじまりであることが解説されました 。

これを見過ごして「口腔機能低下症」へと進行させてしまうと、将来的に摂食嚥下障害や咀嚼機能不全を招き、最悪の場合は胃ろうや看取りといった深刻な事態に繋がるリスクがあります 。最近では若い世代にも増えているという指摘もあり、年齢に関わらず「悪くなる前に整える」という意識を持つことが重要です 。

 

お口のトラブルは、単に「菌」だけが原因ではなく、お口の環境、身体の状態、そして生活習慣という3つの要素が複雑に絡み合って起こります 。特に歯周病は、糖尿病や高血圧、認知症などをドミノ倒しのように引き起こす「メタボリック・ドミノ」の起点となり、全身疾患に大きな影響を及ぼすことが示されました 。

また、女性の場合は更年期などのホルモンバランスの変化によって、歯肉の炎症や口腔乾燥が起きやすくなるという点も、注意すべきライフステージの特徴として挙げられました 。 日々の養生として、具体的で実用的なアクションも多数紹介されました。

 

「あいうべ体操」:口を大きく動かす体操を1日30回を目安に続けることで、口の周りの筋肉を鍛え、口呼吸の改善や免疫力向上に役立てます 。

「3時間ルール」:飲食後に溶け出したミネラルが唾液の力で元に戻る「再石灰化」の時間を確保するため、食間を3時間空けることが推奨されました 。

東洋医学の知恵:旬の食材で「気・血・水」のバランスを整える薬膳の考え方を取り入れ、疲れには「なつめ」、むくみには「コーン茶」など、自分の体質に合わせたインナーケアを行うことが提案されました 。

さらにユニークな視点として、姿勢と噛み合わせの関係についても言及されました。猫背などの姿勢の乱れが顎への負担を増やし、食いしばりや口呼吸を招く原因になるため、歯科医院で姿勢診断や体幹トレーニングを行う意義についても触れられました 。

  

歯科医院は「悪くなってから行く場所」ではなく、カフェのような心地よさの中で自分を大切にし、「未来の自分のために通う場所」へ 。単なる表面的なケアに留まらず、自身の生活習慣や身体の状態を客観的に見つめ直し、専門家と相談しながら「再発しづらい環境」を共に作っていくことが、今ある自分の歯をいつまでも守るための鍵であると結ばれました 。

次回のまちなかリボンサロンは、 広島大学病院 乳腺外科の笹田伸介先生より「さいきんの薬物療法のハナシ」をテーマにをテーマにご講演いただく予定です。次回もZoom配信開催となります。ご期待ください。

2026年3月7日(土)第170回まちなかリボンサロン(WEB形式)開催の報告

第170回まちなかリボンサロンでは、「肩の運動とリンパ浮腫予防」をテーマに、広島大学病院 作業療法士の金山亜希先生から、乳がん手術後の生活をより健やかに、安心して過ごすための具体的な運動法とセルフケアのポイントについて学びました 。手術後の肩の可動域を維持すること、そしてリンパ浮腫のリスクを正しく理解し予防していくことは、術後の自分らしい生活(QOL)を支える車の両輪である――まずその大切な視点が、講演の冒頭で示されました 。

  

講演の前半では、手術後の「肩の運動」の重要性が解説されました。手術直後からリハビリを始めることは、肩関節の拘縮(固まり)を防ぎ、スムーズな日常生活への復帰を助けます 。金山先生からは、時期に合わせた適切な動かし方や、痛みや違和感がある際の注意点が丁寧に説明されました 。特に「振り子運動」や「壁歩き」など、自宅でも手軽に続けられるストレッチの重要性が、実技を交えてわかりやすく示されました 。

  

後半では、多くの患者さんが不安を感じる「リンパ浮腫」について、正しい知識と具体的な予防策が整理されました 。リンパ浮腫は、単なる「むくみ」ではなく、重だるさやジュエリーの跡が消えないといった「わずかな変化」に早めに気づくことが何より大切です 。講演では、浮腫を引き起こすきっかけとなる「炎症(感染症)」「肥満」「過度な負荷」の3つのリスク因子に焦点が当てられました 。

日々の生活で取り入れられる具体的な養生法として、以下のポイントが紹介されました。

  

「スキンケア」と「清潔」:皮膚のバリア機能を保つため、保湿を徹底し、深爪や日焼け、虫刺されなどの小さな傷から菌が入る「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」を防ぐことが重要です 。

「深呼吸(腹式呼吸)」:深く息を吸うことで横隔膜を動かし、全身のリンパの巡りを助ける「ポンプの役割」を活用することが推奨されました 。

「適度な体重管理」:肥満はリンパ管を圧迫し、浮腫を悪化させる要因となるため、バランスの良い食事と適度な運動を心がけることが大切です 。

  

金山先生は、「頑張りすぎず、毎日の生活の一部として自分の体と向き合う習慣を作ってほしい」と強調されました 。無理に重いものを持たないといった制限ばかりに目を向けるのではなく、正しい知識を持って「何がリスクになり、どう動かすのが安全か」を知ることで、活動範囲を狭めずに過ごしていくための前向きな提案がなされました 。

  

気になる症状や変化を感じたときは、一人で抱え込まず、リハビリ専門職や医師に相談しながら「自分に合ったケア」を続けていきましょう、というエールで締めくくられました。

次回の第171回まちなかリボンサロンは、miyu’s歯科小児歯科の伊木友香先生をお招きし、「お口からはじめるやさしいインナーケア」をテーマにご講演いただく予定です。
次回もZoom配信開催となります。皆様のご参加を心よりお待ちしております。

2026年2月7日(土)第169回まちなかリボンサロン(WEB形式)開催の報告

 第169回まちなかリボンサロンでは、「こころとからだにやさしい漢方のおはなし」をテーマに、広島大学病院 薬剤部の櫻下弘志先生(がん専門薬剤師)から、漢方を安心して役立てるための考え方と注意点を学びました。漢方はドラッグストアやネットでも手に入り、暮らしの中で取り入れやすい反面、「自然のものだから安全」「体にやさしいから大丈夫」と思い込んで自己判断で続けてしまうと、合わなかったり副作用が出たりすることがある――まずその点が大事な前提として示されました。

 

西洋薬が“狙ったところにピンポイントで効かせる”のが得意なのに対し、漢方は複数の生薬を組み合わせて、体全体のバランスを整える考え方です。だからこそ、同じ症状名でも、体質やその時の状態によって合う処方が変わります。講演では、体力の傾向(虚・実)、冷えや熱の感じ方、むくみや血の巡りなどを手がかりに「証」を見立て、問診や診察を通して調整していくことが大切だと説明されました。顔色や表情、声の様子、生活習慣や食の好みなど、いろいろな情報を合わせて考えるのが漢方の特徴で、医師と相談しながら“自分に合う形”を探していくことがポイントです。

  

漢方の働きとしては、自律神経を整えて心身のバランスを保つこと、血流の改善により冷えや痛み・むくみ・疲れに関わること、ストレスによるゆらぎを和らげること、気力や食欲を支えることなどが紹介されました。また、がん治療の場面では、漢方は手術や抗がん薬などの代わりではなく、治療に伴うつらさを和らげたり体調を整えたりして、治療を続ける力を支える「補助的な役割」が基本であることも、わかりやすく整理されました。

 

具体例として、むくみや水分バランスの乱れに使われる五苓散、こむら返りなど急な筋肉のけいれんに用いられる芍薬甘草湯などが紹介されました。一方で、注意したい生薬として「甘草」と「麻黄」が挙げられました。甘草は多くの漢方に入っているため重なりやすく、むくみや血圧上昇などにつながることがあります。麻黄は動悸などが出る場合があり、ほかの薬との組み合わせにも気をつけたいところです。漢方同士でも西洋薬とでも、併用するときは一度確認するのが安心、というメッセージは参加者にとって実用的でした。

  

飲み方の工夫も紹介されました。粉が苦手な方は少量のお湯で溶かしたり、服薬ゼリー(オブラート)を使ったり、メーカーによっては錠剤やカプセルがあるので剤形を確認する方法もあります。食前が基本とされることが多いものの、飲み忘れたら食後でもよく、胃が弱い方は食後にする場合もある、など“続けやすさ”への配慮も示されました。漢方は「自分に合う形」で使ってこそ力を発揮します。気になる症状があるときは、医師や薬剤師に相談しながら、無理なく日々の養生に取り入れていきましょう、という提案で締めくくられました。

次回、令和8年3月7日(土)の第170回まちなかリボンサロンは、広島大学病院 作業療法士 金山 亜希 先生に、「肩の運動とリンパ浮腫予防」をテーマにご講演いただく予定としております。次回もZoom配信開催となります。ご期待ください。