第166回まちなかリボンサロンは、島根大学医学部附属病院乳腺センターの角舎学行先生をお迎えし、「乳がんの化学療法について ~周術期編~」をテーマにご講演いただきました。
角舎先生の講演では、乳がんの薬物療法の中でも「術前・術後の化学療法(手術期の治療)」に焦点を当て、サブタイプ別の治療戦略、薬の組み合わせ、近年の治療方針の変化などについて詳しく解説されました。

乳がんは、下記のように大きく4つに分類され、「ホルモン受容体陽性(ルミナル型)」「HER2陽性」「トリプルネガティブ」の3つを中心にサブタイプ分類が行われ、それぞれで治療方針が大きく異なり、治療の目的や意義を説明されました。
- トリプルネガティブ(HR陰性・HER2陰性)
- ルミナル(HR陽性・HER2陰性)
- HER2陽性(HR陰性・HER2陽性)
- 両方陽性(HR陽性・HER2陽性)
- HER2陽性:化学療法+抗HER2療法(ハーセプチンなど)が基本
- トリプルネガティブ:化学療法が中心、症例により免疫療法を併用
- ルミナル:基本はホルモン療法だが、リスクが高い場合は化学療法を追加

HER2陽性乳がんでは、化学療法に加えて抗HER2薬(トラスツズマブなど)を併用することが標準治療となり、高い治療効果が示されています。ホルモン受容体陽性(ルミナル型)の場合はホルモン療法が基本ですが、再発リスクが高い場合には化学療法を追加します。一方、ホルモン療法も分子標的薬も効かないトリプルネガティブ乳がんでは、化学療法が治療の中心となり、適格な患者では免疫療法を併用するケースが増えています。

また、薬剤や投与スケジュールによって再発抑制効果と副作用の強さが異なり、「強ければ必ず良いわけではなく、副作用とのバランスが重要」と説明。特にドーズデンス(2週間ごとに投与する強化スケジュール)は効果が高い一方で副作用も強いため、個々の患者の体力や生活と調和させながら選択することが求められます。

乳がんの化学療法では、身長と体重から算出される投与量が明確に決められており、治療効果を最大化するためには、規定量を守り、治療間隔を延長させないことが重要です。副作用を恐れて自己判断で治療をスキップしたり、投与量を減らしたりすると、再発抑制効果が下がる可能性があると説明されました。
また、術前化学療法(手術前に行う薬物治療)についても触れられ、HER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がんでは、術前治療の効果がその後の治療内容を決める大きな判断材料となる一方、ルミナル型では効果が予後と必ずしも一致しないなど、サブタイプによる違いについても解説されました。

講演の最後に角舎先生は、「乳がんの化学療法には確立されたセオリーがあり、医療者と患者が治療の目的を共有し、必要な治療をきちんとやり遂げることが大切」と述べられました。医学的根拠に基づいた詳細な解説は参加者からも「治療の全体像がよく理解できた」と好評でした。
乳がん治療はますます進歩を続けています。正しい知識と医療者との協働が、より安心した治療につながることを実感できる講演となりました。
次回、令和7年12月13日(土)の第167回まちなかリボンサロンは、ゆめみなみ乳腺クリニック院長尾崎 慎治先生に、「乳がん術後の生活習慣について 」をテーマにご講演いただく予定としております。
次回は現地開催&Zoom配信のハイブリット開催です。ご期待ください。