2026年5月9日(土)第172回まちなかリボンサロン(WEB形式)開催の報告

第172回まちなかリボンサロンでは、「さいきんの薬物療法のハナシ」をテーマに、広島大学病院 乳腺外科の笹田伸介先生から、加速度的に進化を続ける乳がん治療の最前線について学びました。乳がんは一人ひとりの性質に合わせた「個別化治療」が極めて進んでいる分野であり、最新の知見を正しく知ることが、納得のいく治療選択への確かな一歩になる――まずその力強いメッセージが、講演の柱として示されました。

 

乳がん治療を組み立てる上で欠かせないのが「サブタイプ(性質による分類)」の特定です。ホルモン受容体やHER2(ハーツー)タンパクの有無、そして増殖のスピードを示す指標などをパズルのように組み合わせ、その方に最も適した薬剤を選択していくプロセスが、最新の知見を交えて丁寧に解説されました。

近年の治療における劇的な変化として、以下の3つの重要なトピックが整理されました。

  

ルミナールタイプ(ホルモン受容体陽性)の進化: 従来のホルモン療法に加え、「CDK4/6阻害薬(アベマシクリブなど)」という分子標的薬を併用することで、再発リスクの高い方や転移のある方の治療成績が飛躍的に向上しています。 これにより、再発を防ぐための「上乗せ」の選択肢が大きく広がっていることが紹介されました。

HER2陽性タイプへの画期的な新薬: がん細胞を狙い撃ちする「抗体」に「抗がん薬」を直接くっつけた「ADC(抗体薬物複合体)」という新世代の薬(エンハーツなど)が登場しました。 標的細胞だけでなく周囲のがん細胞にも効果を及ぼす(バイスタンダー効果)など、これまでの常識を塗り替えるような高い効果を発揮している現状が詳しく語られました。

  
トリプルネガティブ乳がんへの新たな光: 有効な薬剤が限られていたこのタイプに対しても、免疫の力を借りてがんを攻撃する「免疫チェックポイント阻害薬(キイトルーダなど)」が術前・術後の補助療法として標準化されました。 これにより、手術前にがんが完全に消失する割合(病理学的完全奏効)が有意に高まっていることが示されました。

 

また、講演の締めくくりには、昨今の「AI(人工知能)」の進化についても触れられました。 画像診断や病理診断においてAIが人間を凌駕する可能性が示唆されていますが、治療方針の決定において最も大切な「対話」や「患者さんの価値観への寄り添い」は、AIには代替できない人間ならではの領域です。 科学的なデータやAIの予測を賢い「道具」として使いこなしつつ、最終的には医療者との血の通ったコミュニケーションを通じて、自分らしい道を選んでいくことの重要性が語られました。

  

笹田先生は「新しい薬が増え、選択肢が広がることは大きな希望ですが、同時に治療の組み立ては非常に複雑になっています。決して一人で抱え込まず、医療者と対話をしながら自身にとって最善の道を歩んでいきましょう」と締めくくられました。

次回、第173回まちなかリボンサロンは、本サロンの創設者である島根大学医学部附属病院の角舎学行先生をお招きし、「最新の乳がんの手術〜術式はどうやって決められるのか?」をテーマにご講演いただく予定です。 次回は、オンラインと現地開催(TKP広島本通駅前カンファレンスセンター)でのハイブリッド形式での開催となります。皆様のご参加を心よりお待ちしております