第164回まちなかリボンサロンでは、東京医科大学病院 栄養管理科 管理栄養士の丸山佳純先生を講師に迎え、「乳がんと向き合う食事〜あなたの体を支える栄養の力〜」と題した講演が行われました。治療に伴う体重の変化や食欲不振など、多くの患者さんが抱える悩みに対して、科学的な知見と日常に取り入れやすい工夫を交えて解説いただきました。
がん患者さんの半数は診断時点で既に体重が減少しており、治療が進むと8割以上の方が体重減少を経験するとされています。体重減少の要因には、治療や副作用により「食べられないために痩せる場合」と、炎症や代謝異常によって「食べても痩せてしまう場合(悪液質)」の2つがあります。
悪液質では、体内の炎症性サイトカインが筋肉や脂肪の分解を促進し、肝機能の低下や食欲の減退も引き起こします。その結果、免疫力や体力の低下、感染症や治療合併症のリスク増加につながり、生活の質(QOL)にも影響します。丸山先生は「栄養状態と筋肉量を維持することが、治療を続けるために極めて重要です」と強調されました。
筋肉量をチェックする簡単な方法として「ふくらはぎを指で囲む」「片足で椅子から立ち上がる」といったセルフチェックも紹介されました。
治療中に特に意識したいのは、エネルギーとタンパク質のバランスです。
さらに、次の栄養素を積極的に取り入れることが勧められました。
- EPA(青魚):炎症を抑え、筋肉維持や免疫力の向上に期待
- BCAA(肉・卵・大豆製品など):筋肉合成を助ける
- カルニチン(ラム肉・牛肉など):エネルギー産生や倦怠感改善に有効
また、「主食・主菜・副菜」をそろえることで自然と栄養バランスが整うとのこと。忙しい時でも、コンビニのサラダチキンやパックご飯、野菜サラダを組み合わせるなど、工夫次第で簡単に実践できると紹介されました。
治療中はさまざまな症状で食事が難しくなることがあります。丸山先生は、症状ごとに工夫できるポイントを具体的に挙げられました。
- 食欲がない時:三食にこだわらず、少量・好みのものを。リゾットやサンドイッチなど主食+主菜を一度に摂れるメニューが効果的。
- 吐き気がある時:冷たい料理や匂いの少ないものを選ぶ。
- 口内炎の時:柔らかく滑らかな料理にし、辛味や酸味は避ける。
- 味覚障害の時:口腔内を潤す、柑橘類や亜鉛を摂る、味付けを少し濃いめにするなど工夫。
- 便秘の時:水分補給と野菜・穀類で便のかさを増やす。軽い運動も有効。
- 下痢の時:水分を十分に摂り、脂肪や食物繊維の多い食品は控える。
「治療中は痩せる」と思われがちですが、ホルモン療法やステロイド投与によって体重が増えるケースもあります。肥満は乳がんのリスクを高めることがわかっており、体重管理は再発予防の面でも大切です。
急激なダイエットは筋肉量の減少を招き、免疫力や体力を損ないます。推奨されるのは月1kg程度のゆるやかな減量です。例えば毎日240kcalを食事や運動で調整すれば、1か月で1kg減を目指せます。
- 食事の工夫:お菓子やアルコールを控える、ご飯を数口減らす
- 運動:1日30分のウォーキングを継続する
- 生活習慣の見直し:朝食を抜かない、よく噛んで食べる、遅い夕食を避ける
こうした小さな積み重ねが健康的な体重管理につながるとのことです。
丸山先生は最後に「食事は治療を支えるだけでなく、日々の生活を豊かにする力でもあります。無理をせず、できることから始めましょう」と呼びかけられました。
乳がんと向き合う毎日の中で、食事は心と体を支える大切な基盤です。今回の学びをそれぞれの生活に取り入れることで、治療中でも自分らしく前向きに過ごす力になるのではないでしょうか。
次回、令和7年10月4日(土)の第165回まちなかリボンサロンは、広島大学病院 看護部山口 眞由美 先生に、「乳がんと生活 ~自分らしく生きる~ 」をテーマにご講演いただく予定としております。詳細が決まり次第、改めてホームページ上でお知らせいたします。