術前化学療法前のCTとリンパ節細胞診で転移なしということですので、臨床的にリンパ節転移陰性と判断します。
①乳癌診療ガイドラインでは、臨床的リンパ節転移陰性乳癌に対して術前化学療法後のセンチネルリンパ節生検(以下センチネル)は「弱く推奨」するとなっています。現実的に「やってもよい」との判断です。
②今のところ、腫瘍サイズが大きいとか、トリプルネガティブ乳癌という条件でセンチネルの精度が下がるとのデータはありませんので、リンパ節郭清を行う理由にはならないと思います。
③(臨床的にリンパ節転移陰性の場合)腋窩郭清と、センチネル→転移があれば郭清 で再発率に差はないとされています。
④センチネルの技術的な質問でしょうか? 色素とアイソトープ併用法がやや精度が上とされていますが、いずれかの単独法も許容できるとされています。治療前後でリンパ節のサイズを比較することやPET-CTでリンパ節診断の精度を上げることはできますが、確定的なものではないと思います。
センチネルの精度には同定率(手術中にリンパ節を見つけられるか)と、偽陰性率(術中に転移陰性、後から陽性とわかる)があるのですが、臨床的リンパ節転移陰性乳癌・術前化学療法後のセンチネルで同定率は96%、偽陰性率6%で通常のセンチネルとほぼ同等とのことです。
⑤「痛み」は微小転移では起こりませんので、おそらく関係ないと思います。
腋窩リンパ節転移があるとリンパの流れが変わってしまうので、転移のないリンパ節のみがセンチネルリンパ節に見えることがあります。これに術前化学療法でもともとのリンパ節転移が小さくなると手術中に取るべきリンパ節がわかりにくくなるのです。担当の先生は①「術中センチネル陰性だったが術後に陽性と判明した」②「センチネルで陰性だったが、転移のあるリンパ節を取り残していた」の2パターンを危惧しておられると思います。腋窩郭清をすればこれらは回避できるのですが、リンパ浮腫や上肢の痛みといった後遺症リスクが上がります。
①の場合は追加郭清をすればいいと思います。確かに体に負担はかかりますが、可能性としては6%と低率です。
②の場合が深刻ですね。治療前のリンパ節転移の臨床診断が自信をもって陰性であれば、センチネルの精度は担保されるのでその結果を信じてよいと思います。
見ていただいてわかるように、センチネルの精度はもともと100%ではありません。100%の確信を得ようとすると郭清するしかないのですが、後遺症リスクとの兼ね合いで現在はセンチネルが標準術式です。数字だけで解決するものとは思いませんが、最大限の効果が得られて、最小限のダメージで済む、その妥協点を個別に見つけていただければと思います。アイソトープ法のセンチネルには準備がいるため、術式変更があれば早めに担当医にお伝えしておいた方が良いと思います。
文責:県立広島病院乳腺外科 野間翠