3月末日に右乳房温存手術を行い、今月に入り病理の結果が出ました。今後放射線治療とホルモン療法を行う予定です。
病理結果は、最大腫瘍径16㎜(しこり部13㎜)、組織学的悪性度1、脈管侵襲(血管:なし、リンパ管:あり)、ERとPR陽性(ともにほぼ100%)、HER2陰性(1+)、Ki67低い(10.1%)、腋窩リンパ節1(センチネルリンパ節生検で1/2、リンパ節廓清を行い0/11でした)。T1N1M0のステージⅡAです。
ホルモン療法について悩んでいます。乳癌発見時、不妊治療を行っている最中でちょうど4個の胚盤胞凍結を行ったところでした。現在年齢が38歳という事もあり、最低5年という長さのホルモン療法は心情的に前向きな気持ちで受けられません。不妊治療もだらだら続ける気はなく、30代で(結果がどうあれ)全てけりをつける気持ちで臨んでいたので乳癌発覚で一番つらかったのが「最低5年」という治療期間でした。
素人なりに勉強し、PREDICTやCancerMathで予後の試算をしたり、POSITIVE試験中であることを知りました。その結果感じたことは、ホルモン療法を5年実施しても上乗せ効果が5%にも満たないことと、POSITIVE試験の参加を募集しているときに乳癌が発覚していたら、きっと参加を希望したであろうという事です。そこで、ホルモン療法は最長で2年実施→妊活→その後残りのホルモン療法(計5年ないし10年)が現時点での最良なのかなと思っているのですが、
①放射線治療後ホルモン療法はせずにすぐに妊活(その後ホルモン)という選択はどうか。
②POSITIVE試験では18か月~30ヶ月のホルモン療法となっているが、この期間の差は何なのか。(18か月で良いのなら2年と言わず18か月で一度切り上げたい。)
この2点で悩んでおります。
何も考えずに素直な気持ちとしては、「今年中に不妊治療を再開したい。(最低でも胚盤胞4つの移植を早いうちにやりたい)。かといって自分の体が第一(挙児できるならなおさら)。数か月でもホルモン療法を行えば予後に作用するならば(全くしないという選択はちょっと不安)半年ぐらいやって不妊治療を再開したい。」です。
主治医には不妊治療中である事は話していますが、乳腺外科医として最低5年はホルモン治療をして欲しい気持ちがあるようではっきりと今後の治療方針をすり合わせできていません。先生の事は信頼していますし、寄り添ってくれていると感じていますが、それがかえって先生の治療方針を拒否することが申し訳ないなと感じてしまい、こちらからも強く言えないでいます。現段階で私としては最低2年はやります、と軽く伝えていますが、きちんと踏み込んで方針を決めたいので、放射線治療終了までに自分の気持ちをしっかり固めて主治医と相談できるよう、上記2点についてアドバイスを頂ければ幸いです。
ご質問の内容から、大変に悩まれて勉強されていることが感じられ、お答えすることも緊張しますがご存知のようにPOSITIVE試験という国際試験の結果が少なくとも5年以上は経ってから明らかになってくると思います。ただ、この試験の結果がでて、術後何か月以上ホルモン療法をすればその後、生殖医療の介入で不妊治療をしても予後(乳がんが再発してなくなる確率)に差がないのか?ということに対する指標ができますが、「それに準じて中断すれば100%大丈夫」というお答えには恐らくならないかと思います。
「90%で再発がなかった」
という結果が得られたとしても、同じように治療をして10%に入る方もおられるわけです。特に、はっきりとしたエビデンスのない現状では、ご自身の選択をより安心なものにできる根拠がありません。
数字で言ってしまえば再発率は5%
しかし、再発した方にとっては100%
いろいろな選択ののちに、期待した結果にならなかった場合に、ご自身がどう思われるのか、どう納得されるのかが一番の選択にあたるポイントになるかもしれません。
5年間しっかり治療して、治療も妊活もうまくいった場合は最高です。でも、5年間治療した結果、妊娠が成立しない可能性はもちろんあります。早期に治療を中断して胚移植を選択し、妊娠も治療もうまくいかなかったという最悪の事態も可能性は低いですが起こった場合にご自身が納得できるのかどうか。悩みの原因はそのようなお気持ちにありますでしょうか。
哲学ではなくて医学が知りたいのに
と言われても仕方ありませんが、特に現段階ではこれが医学の限界かと思われます。
「再発する可能性は高くないかもしれないけれども、再発する方もいるかもしれない」
というお答えになります。
①放射線治療後ホルモン療法はせずにすぐに妊活(その後ホルモン)という選択はどうか。
⇒治癒を目指す担当医の意見としてはお勧めしかねます。ひとつ前の方のご質問に対するお答えもご参考になさってください。
②POSITIVE試験では18か月~30ヶ月のホルモン療法となっているが、この期間の差は何なのか。(18か月で良いのなら2年と言わず18か月で一度切り上げたい。)
⇒根拠となるデータは調べる限りありませんが、何か月で治療を断念した場合により再発率が上がってしまうのか、という疑問に対する答えがこの試験により出るかもしれません。
お辛い決断ですが、ご自身やご家族のお気持ちをよく話し合われてお考えいただければ幸いです。
文責:広島大学病院乳腺外科 恵美純子