タモキシフェン内服後の月経異常、リュープリンの必要性について教えてください

2021年7月6日   

44歳女性です。
2021年2月、浸潤性乳管がんで右側全摘手術を終えました。
腫瘍径8ミリ×7ミリ、ホルモン陽性(ER≧90% PgR50%)、Her2(fish法)陰性、Ki値10% 核グレード1 脈管侵襲なし、センチネルリンパ生検陰性、ステージ1Bでした。オンコタイプの結果、RS17 9年遠隔再発率5% 化学療法上乗せ効果<1%以上により、タモキシフェン単独の治療方針で、3月より内服しています。
早速5月と6月に月経異常がおこり、(ごく少量3日間、数日空けて中量5日間、数日空けて通常の生理1週間)だらだら長引く生理になっています。内服前は規則正しい周期でしたが、内服してからは生理の日数も増えているので、女性ホルモンが増えているのかな、など、心配になってしまいました。
子宮がん検診では異常なしで、ポリープや筋腫なども今のところありません。
質問です。
このようなことは、タモキシフェンの副作用としてよくあることなのですか?子宮に異常がなければ副作用として受け入れて慣れていけばよいのでしょうか?
また、私の場合は、リュープリン併用は推奨されますか?主治医は、再発リスクを考慮して害と益のバランスを考えると不要だと思うが、やりたいならやるけど、という感じでした。
少しでも転移のリスクを下げたいとも思いますが、先生方はどうお考えになりますか?もしやるなら少しでも早く始めたほうが良いのでしょうか?
以上どうぞよろしくお願いいたします。

ご質問ありがとうございます。タモキシフェン内服中に生理の周期などが乱れ、薬が効いているのかご不安になっておられるのですね。

①    タモキシフェンの「副作用」として生理が止まること、一時的に止まっていた生理が再開すること、周期や経血の量が変化することは時々見られる症状です。(添付文書では0.1-5%未満の頻度、と記載があり主な副作用の一つです)子宮がん検診は受けておられ大きな異常はなさそうですが、症状が今後も続くようであれば、検診ではなく、近々婦人科の診察を受けてみては如何でしょうか。通常の生理1週間以外の出血は、不正性器出血かもしれません。無症状の方を対象とした検診と、症状のある方を対象とした診察は異なるものです。診察で問題ないのなら、今後も定期的に婦人科を受診され、今まで通りタモキシフェン内服を継続してください。

②    リュープリンの併用に関してですが、結論から申しますと当院でも基本的に併用はお勧めしません。日本乳癌学会のガイドラインでは、過去の臨床試験から再発リスクが高い対象集団(腋窩リンパ節転移陽性で化学療法を必要とするような症例)や若年層においてLH-RHアゴニスト(=リュープリンもこの一種)の使用を推奨されています。“若年層”、というのは、過去の臨床試験では35歳に設定されておりますが、広島大学病院系列の当院では少し対象を広げて40歳以下、としています。再発抑制効果は、閉経前の患者さん「全体」で、8年無病生存率はタモキシフェン単独で78.9%、タモキシフェン+LH-RHアゴニスト併用で83.2%です(NEngl J Med 2018; 379:122-137)。また再発リスクが低い患者さんに限ると、生存率に差はないという報告があります(J Clin Oncol. 2014 Dec 10;32(35):3948-58)。

質問者様の場合は再発リスクが高くないので、リュープリンを併用したとしてもその効果は低いのでは、と推察されます。またLH-RHアゴニスト併用でホットフラッシュ・うつ症状などの更年期様症状が増えますので、そういった副作用を主治医の先生は考慮されていると思われます。

③    術後療法においては上記のようなデータになっていますが、転移性乳がんでの成績などから、閉経前の患者さんでは、タモキシフェン+LH-RHアゴニストが最も強く血中エストロゲン濃度を抑えるホルモン療法と考えられています。過剰治療となる可能性もあることを踏まえて、患者さんの希望でリュープリンを使用する、というのも選択肢になるとは思います。はっきりとした根拠がないため、副作用やご自分の価値観、主治医の先生との相談で決める他ありません。

もし始めるとすれば、過去の臨床試験では手術日から16週以内にタモキシフェンとリュープリン投与を開始する規定となってはいます(J Clin Oncol. 2014 Dec 10;32(35):3948-58)。しかし既にタモキシフェンを内服されているのでリュープリンも早めに始めるのが良いかもしれませんが、明確な決まりはありません。

ホルモン治療は長期間になりますので、主治医の先生とよく相談されて下さい。上記ご参考になれば幸いです。再発なく経過されること祈っております。

 

文責:呉共済病院乳腺外科 網岡 愛