乳癌部分手術後の放射線治療について、外科医と放射線治療医とで意見が違います
2020年11月22日 放射線治療
2020年5月にトリプルネガティブの乳癌、浸潤がん、ステージ
6月よりしこりを小さくするために、抗がん剤治療(EC×4回、
術前のRIでは、わきのリンパ節移転なし、と判断されたのですが
病理検査では乳房の癌細胞は手術ですべて摘出されたとの事でこれ
そこでご質問です。
主治医の話では、温存した乳房、脇の下、鎖骨の3点に放射線を照
手術で脇の下のリンパ節は一部しか摘出していないので、まだ癌が
(放射線科の先生が照射場所の絵を描いてくださいましたが、脇は
ご質問ありがとうございます。
脇のリンパ(腋窩リンパ節)は部位によって、レベル1, 2, 3の3つに分類されます。今回摘出したリンパ節はレベル1のことではないかと思います。基本的には郭清した範囲には照射をする必要はないとされています。乳房と鎖骨上領域に照射をする場合、乳房は斜めの2方向から、鎖骨上は前1方向または前後の2方向から放射線を照射します。脇の奥の方のリンパ(レベル2, 3)は鎖骨上リンパ節や乳房と近いため、乳房と鎖骨上に照射を行った場合には自ずと照射範囲に含まれます。おそらく、主治医の先生の“脇の下に照射をする”は“郭清していない脇の奥の方のリンパに照射を行う”という意味であり、放射線治療医の“脇の下には照射をしない”は“郭清した範囲の脇のリンパには照射を行わない”という意味ではないかと推察いたします。したがって、どちらの先生が言われていることも実は同様の意味ではないかと思います。
また、腋窩リンパ節郭清を行った場合、鎖骨上領域に照射を行うとリンパ浮腫のリスクは増加します(恐らく、“脇の下を照射すると浮腫が起こりやすい”というこの場合の脇の下とは鎖骨上領域を意味しているのではないかと思います)。したがって、リンパ浮腫の発症リスクが増加するというデメリットよりも鎖骨上領域に照射を行うことによる再発リスクの低下というメリットの方が大きい場合に鎖骨上領域への照射を行います。今回は、診断時にはリンパ節転移なしと判断されていたものの、手術時にリンパ節転移陽性であったため、鎖骨上への照射も行った方が良いと判断されたものと考えますので、鎖骨上への照射も受けていただいた方がよいのではないかと思います。
文責:広島大学病院放射線治療科 西淵いくの