第178回まちなかリボンサロンでは、「乳がんの治療と仕事の両立~「働く」ことと向き合うヒント~」をテーマに、日東電工株式会社 尾道事業所の産業医、甲斐あずさ先生からお話しいただきました。もともと広島県内の医療機関で乳腺外科医として勤務され、現在は製造業の産業医として従業員の健康を支えておられる先生で、司会からは「明るい笑顔で周囲を爽やかにしてくれる先生」と紹介されました。

前半では、なぜ今就労支援が必要なのかが示されました。がんと診断される方の約4割は働き盛りの就労世代で、乳がんは30〜50代の罹患が多いといいます。治療の進歩で生存率が向上し、入院は短く外来中心になったことで、治療を続けながら働く選択肢も広がりました。一方、診断された方の約2割が退職や廃業を選び、その半数以上が診断確定前から初回治療前の、最も心が揺れる時期に決断しているそうです。理由は体調よりも「周囲に迷惑をかけたくない」「続ける自信がない」が多く、本当は9割以上の方が就労継続を希望している点も紹介されました。

病院や職場にも課題が残っています。就労に関する相談が少ない病院が多く、企業側も代替要員の確保や復職の判断に悩んでいるとのことです。こうした中、令和8年4月には両立支援が事業主の努力義務として法的に位置づけられ、方針表明、研修、相談窓口の明確化、休暇・勤務制度(時差出勤や短時間勤務など)の整備が求められるようになりました。会社・病院・本人が支え合う仕組みが整いつつあると説明されました。

具体的には、本人が仕事内容を「勤務情報提供書」で主治医に伝え、主治医の意見書をもとに、会社や産業保健スタッフと両立支援プランを作ります。「重いものを持つ仕事に戻ってよいか」など具体的に尋ねるほど、助言も具体的になるということです。乳がん特有の配慮として、リンパ節郭清(わきの下のリンパ節を取り除く手術)後の重い物の制限、抗がん剤中の感染対策や通勤ラッシュを避ける時差出勤・在宅勤務、ホルモン療法によるホットフラッシュ(のぼせ)への席替え、連日通院が必要な放射線治療での勤務時間調整などが挙げられました。また、傷病手当金で休業し、回復後に復職する選択肢もあるため、慌てて退職せず、まず勤務先の制度を確認してほしいと呼びかけられました。

相談先として、厚生労働省の「両立支援ナビ」、病院や会社の両立支援コーディネーター、そして中小企業や患者本人も無料で相談できる「産業保健総合支援センター(通称さんぽセンター)」が紹介されました。質疑応答では、本人だけでなく上司や同僚が相談に来ることも多く、その「支援者支援」が産業医のやりがいだと語られました。

最後に先生は、両立支援のニーズと社会の仕組みは確実に整ってきている一方、必要な配慮は一人ひとり異なるため、患者さん自身が主体的に相談の第一歩を踏み出してほしいというメッセージで講演を締めくくられました。
次回、令和8年12月5日(土曜日)の第179回まちなかリボンサロンは、呉医療センター・中国がんセンター 乳腺外科の木村優里先生に「乳がんの治療はどう決まる?~病理結果からひもとく乳がん治療~」をテーマにご講演いただく予定です。
次回は会場(TKP広島本通り駅前カンファレンスセンター)とオンラインのハイブリッド形式で、14時から開催される予定です。ぜひご参加ください。